王子、外出する
ここはアバロニ王国のアルシュロッホ城。
コンコン、コンコン
ドアをノックする音が聞こえる。
部屋にいたパーヴァートは、ドアに向かって声をかける。
「ど……」
ガチャッ
「お喜びください、パーヴ王子。疫病がおさまってきたので、外出してもよいとのことです」
「あっ、そう」
(そんなことより、ノックする必要ある? ねぇ、ある?)
パーヴァートは心の中で思ったが、口には出さなかった。エリーナに何を言い返されるか、ちょっと怖かったからだ。
「あれっ? うれしくないのですか?」
「う〜ん、だって外に出ても何もすることがな――ッ!!」
話している途中でパーヴァートは何かに気づく。
(そうだった! 権造がトラックに轢かれたとき、たしか買い物してたんだ! 〈高速の騎乗位娘〜特盛〜〉と〈もしも小村優里が僕の彼女だったら〉のDVD、それと〈ミミズ万匹ギチコリDXウルトラハードver.〉のオナホールを買って、誰も体感したことのない“絶頂の向こう側”へ“イク”つもりだったんだ! まさかトラックに轢かれて“逝く”とは思わなかったけど)
パーヴァートはエリーナに質問をする。
「なぁエリー、町にはアダルトショップってあるのかい?」
「はぁ…………あだる……と? 申し訳ございません、そのようなお店は聞いたことがないですね」
エリーナはまったく知らない言葉に困った表情を浮かべた。
「大人が読む本とか道具とかを売っている店なんだ」
「でしたら、王立図書館や鍛冶屋がございます。私も最近、王立図書館に通っているんですよ」
「う〜ん、そうじゃなくて……え〜、無いのかぁ……じゃあ、やっぱり外に行かな〜い」
(王子は城下町のことを忘れてしまわれたのかしら? あのとき、エルフの里で頭を打ったから……)
“頭を打ったせいで記憶をなくしている”と勘違いしたエリーナが心配して声をかける。
「パーヴ王子、城下町に行けば何か思い出すかもしれませんよ」
「え〜っ、めんどくさ――ッ!!」
パーヴァートはまた何かに気づいた。
(そうだった……今の俺は超男前だったんだ!! ってことは、外に出たらめちゃくちゃモテるんじゃないか!? フッ……まさか童貞を捨てる日が来ようとはな……)
「エリー、俺ちょっと外出してくる」
「えっ!? は……はい」
(突然どうしたのかしら? やっぱり頭を打った後遺症が……)
ニヤニヤしているパーヴァートを見て、エリーナは心配になってくる。
「パーヴ王子、城下町には公衆浴場がありますが……リムツ様のことをお忘れなきよう、お願いいたします」
「ほへっ? リムツ様って……誰?」
(あぁ……やっぱり、王子は記憶喪失に……実の兄君の名前を忘れてしまわれるとは……)
エリーナは優しくパーヴァートに説明する。
「リムツ様は、アバロニ王国の第一王子……つまりパーヴ王子の兄君です。私は直接お会いしたことがございませんが、セーリオ王から話を伺っております」
(あ〜そうなんだ。俺、お兄さんいるんだ……)
パーヴァートは興味なさそうに話を聞く。
「リムツ様はアバロニ王国随一の魔導師でした……ですがある日、公衆浴場の女湯をのぞいているのを見つかり、国外追放となったのです」
「えっ!? それだけで国外追放!? 怖っ! この国怖っ!!」
「パーヴ王子は決して女湯をのぞかないでくださいね、約束ですよ」
「あぁ、わかったよエリー。じゃあ町に行ってくるね」
パーヴァートは城下町に出かける。
(女湯をのぞけるんだ……バレない方法……か)
そんなことを考えながら――