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王子、おねしょする (メイドビュー)

 ここはアバロニ王国のアルシュロッホ城。


 ある日の早朝――





「うわァァァああああ!!」


 叫び声? この声はパーヴ王子!? いったい何事なの!?

 朝食の用意をしていた私は、(かす)かに聞こえた王子の叫び声に気づきました。


 すぐに、お城の二階にあるパーヴ王子の部屋へと向かいます。


 王子……王子の身に何かあったら私は……



「パーヴ王子! どうなされました!?」


 ガチャッ!


 ドアを開けると、パーヴ王子は驚いた顔で私を見てこられました。


「うひゃあっ! エッ、エリー……おはよう……」


 ? 何か慌てている様子だわ。


「おはようございます。叫び声が聞こえたのですが……」


「はへっ? いっいや、ちょっと怖い夢を見たんだ……」


 まぁ、すごい汗……でも顔色は悪くないし、熱もなさそう。本当に怖い夢でも見られたのかしら? 子どもみたいでかわいい……


「まぁ、汗をかいておられますね。今すぐタオルをご用意いたします」


「あ、あぁ……ありがとう、助かるよ」


 ガチャッ


 私はパーヴ王子の部屋を出て、疑問に思いました……


 おかしい……本当に怖い夢を見たとして、そのあと私を見て慌てるかしら? それにいつもの……いやらしい……話をされなかった。

 いつものパーヴ王子ではなかった。

 …………違和感がありますね。

 何か隠しておられるのかしら?


 私はタオルをご用意して、パーヴ王子の部屋へと戻ります。


 コンコン、コンコン


 ノックだけはしておきましょう。


「どうぞ、入」

 ガチャッ


「パーヴ王子、タオルをお持ちしました」


「ご苦労、そこに置いといてくれ」


「……………………」

 やっぱりおかしい……

 私はタオルを置いてそのまま様子を見ることにしました。


「んっ? どうした? さがっていいよ」


「いえ、着替えられたようなので、衣類をお預かりします」


「ほひゃっ!? いや、いいよ! ほらっ、エリー……たまには俺が自分で洗濯するよ! ほっ、ほら、エリーの白魚のような綺麗な指が荒れたら嫌だからさ……」


「……………………」

 王子……王子の優しさ、とてもうれしいです。

 でも、そんな王子は絶対に変です。

 私に何か隠して、なおかつ私の好感度をあげようと、一石二鳥を(たくら)んでおられるのが、とてもよくわかります……


「わかりました……では、失礼いたします」


 ガチャッ


 私は部屋を出ると、階段の下の柱に隠れて、王子が出てくるのを待ちます。

 するとキョロキョロと辺りをうかがって、王子がそっと部屋から出てこられました。

 ……まるで泥棒みたい。



 洗濯場に向かわれるようね……

 手に持っておられるのは寝間着と……シーツ? 

 まさか夜尿をされたのかしら?



 ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ……パンパン、バサッ……


 洗濯場に着いた王子は、寝間着とシーツを急いで洗われました。

 別に夜尿くらい気にしなくても、私が洗ってさしあげるのに……


 ……王子でも恥ずかしいことがあるんだ。

 ……夜尿なんかより、いつもの……いやらしい……話のほうが、私は恥ずかしいんだけどな。





 パーヴァートは背伸びをしながら部屋に帰っていった。


 洗濯物が干してある庭の木の陰から、エリーナがずっと見ていたことに気づかずに――





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