王子、おねしょする (王子ビュー)
ここはアバロニ王国のアルシュロッホ城。
ある日の早朝――
「うわァァァああああ!!」
思わず叫んでしまったぜ……芋小田権造43歳、一世一代の不覚!!
眠かった……おしっこがしたかったけれど、なかなかトイレに行くために起きられなくて、ベッドのなかでモゾモゾしていた……
ちょっと(おならしたいなぁ〜)なんて、“プッ”とした瞬間――
漏れていた。あぁ、おしっこが! だ。
それについては一切弁明するつもりはない。まったくない。
でも、一世一代の不覚って言ったけど、赤ちゃんのときは“おねしょ”なんて当たり前にしてるんだから、一世一代じゃなくね?
それにちょっとだけ……ほんの5ミリリットルほどだけだから……いや、うそだ! 自分にうそをついてどうする、本当は20ミリリットルは軽く超えているだろう……
さぁ、どうする権造! どうやって、このシーツと寝間着(パンツ含む)を洗って干す?
いつもはメイドたちが洗濯をしてくれている……
だが! 今回はうまくごまかして、自分で洗濯をしなければならない! おねしょがバレたら、エリーに軽蔑されてしまう! それだけは嫌だ!
どうする? どうするどうするどうするどうするどうす……
「パーヴ王子! どうなされました!?」
ガチャッ!
ドアを開けてエルフのメイド、エリーが部屋に入ってくる。
「うひゃあっ! エッ、エリー……おはよう……」
「おはようございます。叫び声が聞こえたのですが……」
まずい! なんとかごまかさなければ!
「はへっ? いっいや、ちょっと怖い夢を見たんだ……」
「まぁ、汗をかいておられますね。今すぐタオルをご用意いたします」
「あ、あぁ……ありがとう、助かるよ」
ガチャッ
ふぅっ……エリーは部屋から出ていったな。
とりあえず急いで着替えて、と。
さぁ……城の一階、洗濯場まで誰にもバレることなく、シーツと寝間着(パンツ含む)を持っていかなければ。
今なら洗濯場には誰もいないはず……
んっ? そう言えば、エリーは俺のパンツを毎日洗っているのか? やばい! 興奮してきた! 違う! 今は興奮してる場合ではない!
コンコン、コンコン
ドアをノックする音が聞こえる。
俺はドアに向かって声をかける。
「どうぞ、入」
ガチャッ
なんか、ドアを開けるの、どんどん早くなってない?
「パーヴ王子、タオルをお持ちしました」
「ご苦労、そこに置いといてくれ」
「……………………」
エリーはタオルを置いてそのまま立っている。
「んっ? どうした? さがっていいよ」
「いえ、着替えられたようなので、衣類をお預かりします」
「ほひゃっ!? いや、いいよ! ほらっ、エリー……たまには俺が自分で洗濯するよ! ほっ、ほら、エリーの白魚のような綺麗な指が荒れたら嫌だからさ……」
「……………………」
エリーがずっとコッチを見てる!? まさか気づかれたのかっ!?
「わかりました……では、失礼いたします」
ガチャッ
ふぅっ……出ていったな。
気づかれたのかと思った。さぁ、早いうちに洗濯場に行こう!
幸い、廊下で誰にもすれ違うことなく(コソコソと隠れて)洗濯場にやってきた。今はまだメイドたちは掃除をしているはず。
メイドたちが来る前に洗ってしまわねばっ!!
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ……パンパン、バサッ……
……やっと洗って干せた。
メイドたちが洗濯場に来る前に、ミッションクリアできた!
さぁ、部屋に帰ろ〜っと。
パーヴァートは背伸びをしながら部屋に帰っていった。
洗濯物が干してある庭の木の陰から、エリーナがずっと見ていたことに気づかずに――