王子、ガーターベルトについて熱く語る
ここはアバロニ王国のアルシュロッホ城。
コンコン、コンコン
ドアをノックする音が聞こえる。
部屋にいたパーヴァートは、ドアに向かって声をかける。
「どうぞ、入り……」
ガチャッ
「失礼いたします。パーヴ王子、夕食のご用意ができました」
「わかった…………んっ?」
アバロニ王国第二王子、パーヴァートは部屋に入ってきたエルフのメイド、エリーナを見て何かに気づく。
「……なぁエリー、メイド服のスカートの丈、長くないか?」
「はぁ?」
「絶対領域が見えないじゃないかっ!!」
「絶対領域……ですか?」
(また何か言いだした……)
エリーナは呆れていたが、かまわずにパーヴァートは話を続ける。
「そう! ニーハイとスカートの間の生の太もも! 見えないじゃないかっ!!」
「王子……お言葉ですが、これ以上スカートの丈を短くすると……その……下着が見えてしまいます」
「なるほど、絶対空域の死守があるからこその絶対領域の価値の高さ……と言いたいわけか……わかる! その理論わかる! たしかに絶対空域は、屈んだときなんかに偶然チラッと見えるからこそ価値がある! だがなっ!」
パーヴァートはエリーナの太ももを指さして涙ぐむ。
「だって、それじゃガーターベルトが見えないやんか! メイド服の黒色に対して、ニーハイとガーターベルトの白! そのコントラストが最高なんや! 黒のニーハイが好きな人もいる。俺も好きや! だけど、ニーハイが黒でガーターベルトまで黒だとセクシーすぎるやんか!!」
(ヤンカ? ……ヤンカって何?)
エリーナの疑問をよそにパーヴァートは熱弁する。
「黒のニーハイが良いから、じゃあガーターベルトは要らない……そう思う人がいるかもしれない……でもそうじゃない、そうじゃないんだ。ガーターベルトは、ラーメンのメンマみたいなものなんだ! ……そりゃあ、メンマがなくてもラーメンは成立するよ、でも欲しいじゃんメンマ、ないと寂しいじゃん……」
パーヴァートは熱弁しすぎて涙ぐんでいる。
(ラーメン? メンマ? 何? よくわからない……)
まったくなんの興味もないが、それでもパーヴァートの話をしっかりと聞くエリーナは、まさにメイドの鑑といえるだろう。
「……ということでっ! エリー! スカートの丈を短くしてくれっ!!」
「嫌です」
エリーナは冷たく言い放つ。
「見たいよぅ……ガーターベルト付き絶対領域、見たいよぅ……」
パーヴァートはガックリと膝を落とし、シクシクと泣きだした。
「……………………」
エリーナは、泣いているパーヴァートを冷たく見ながら、
“バサッ”
何か手を動かした……ように見えた。
「えっ、何!? 今何したの!? ひょっとして、スカートまくってくれたの!? ねぇ? まくってくれたの? 見てなかった! もう一回! ワンモアプリーズ!!」
パーヴァートは顔をあげて、うれしそうにエリーナを見た。
「やっぱり、うそ泣きだったんですね。何もしていませんよ……さぁ王子、夕食が冷めますよ」
エリーナは無表情でそう言うと、先に部屋を出ていった。
エリーナの頬が、少しだけ赤く染まっているように見えたのは気のせいだろうか?