王子、おっぱいについて熱く語る
ここはアバロニ王国のアルシュロッホ城。
コンコン、コンコン
ドアをノックする音が聞こえる。
部屋にいたパーヴァートは、ドアに向かって声をかける。
「どうぞ、入りた……」
ガチャッ
「失礼いたします。パーヴ王子、朝食のご用意ができました」
「わかった、すぐに行く。ところでエリー……」
パーヴァートは部屋に入ってきたエルフのメイド、エリーナを見て爽やかな笑顔で言った。
「おっぱいを……おっぱいを揉ませてもらえないか?」
「……………………パーヴ王子、私はあまり……その……豊満な胸ではございません。ご満足いただけないかと存じます」
「はぁぁぁぁああ〜」
パーヴァートは、うそくさい大きなため息をつく。
「いいかい? エリー、おっぱいは大きさじゃあ〜ないんだ! ……か・た・ち、形なんだ! お椀形の半球状が良いおっぱいって思うだろ!? でも違う、違うんだ! それじゃあボールみたいで、うそくさいんだ。下乳の綺麗なアール曲線が“1”だとすると、上乳は少しなだらかな“0.75”、この下乳:上乳のアール曲線の比率“1:0.75”が重力を感じさせる自然な“おっぱい美”なんだ! つまり――」
(王子は何を仰ってるの? 早く朝食を召しあがりに向かわれないのかしら?)
エリーナは、季節外れの枯れそうな朝顔を見るような憐れみの目でパーヴァートを見つめている。
(ふふふ、エリーのやつめ、俺があまりにも高尚なことを言ってるので尊敬しているな……俺に惚れてしまったか……)
パーヴァートは続ける。
「それにおっぱいが大きすぎて、乳首と乳首が離れて外側を向いていてはいけない! どちらも正面を向いていなければ! それから乳輪! 乳輪が大きいと興奮する……わかる、それは確かにわかる! でもな、それは綺麗な小さめの乳輪があるからこそ、大きい乳輪がエロく感じるんだ! 基本は小さめなんだ! 乳首! おまえもだ!!」
パーヴァートは部屋の窓を開け、外に向かって熱弁しだした。
もちろん馬鹿だからである。
この熱い思いを、国中の民に聞かせたかった。
パーヴァート、いや芋小田権造は、現実世界で叶えられなかった夢、おっぱいへの思いの丈をぶちまけていた。
「やはり、大きさは片手で隠れるか、少しはみ出るか……くらいの小ぶりが良いでござる! 張りがあるのに柔らかい、この矛盾を持ち合わせたおっぱいが良いでごさるよぉおお〜!!」
(ゴザル? ゴザルって何かしら? そんなことより食事が冷めちゃう、温め直さなきゃ……)
エリーナは食事の心配をしていた。
「そして乳首の色ぉぉお!! ピンク! ピンクでござる! 黒ずんだ色がエロいのも、それはピンクから遊ばれて黒ずむ流れがあるから、エロく感じるんでござる! 最初はピンクが良いでござるよぉぉお〜!! ハァハァ……なぁ、エリーもそう思うだ……」
パーヴァートが振り向くとエリーナはとっくに部屋から出て、いなくなっていた。
開けた窓から入ってくる風の音がとても虚しい。
(……………………さぁ、朝ご飯を食べに行くか)
何事もなかったかのように、平静を装ってパーヴァートは部屋を出ていった。