第2話 壁ドンする長身イケメンエルフ
助けてくれたエルフの騎士さんが、街まで乗せて行ってくれることになった。
「私の名はジーク・アルフレッド・イースだ。騎士団の副団長をしている。気軽にアル、と呼んで欲しい。」
「ボクは…ウサギノです。」
名前を告げながらアルさんを見上げると、ついっと目を逸らされた。
アルさんの白い肌の長い耳の先が、真っ赤に染まっている。
(こ、これゼッタイ勘違いされているよね…?!)
どうにかボクが男だと気付いて貰おうと、話しかける。
男らしい会話…男らしい会話…!
「あ!アルさんは騎士なんですか?かっこいいですね!」
「そ、そうか?」
「ボク、憧れちゃいます!」
カアアアアアア!!
音がしそうな勢いで、アルさんの顔が赤くなる。
「ち、違うんです!アルさんみたいな男性が、ボクの理想って言うか…あ、あれ?」
ますます墓穴を掘っている。
このままじゃダメだ!
慌てて、アルさんの手首を掴み胸元にピトッと寄せる。
「触ってください!」
ん…?
んん〜〜〜?!
ふにふにつるぺたんなボクの胸板を触ったまま硬直するアルさんを見て、盛大に間違えてしまった事を自覚した…。
「あのですね、違うんです。ボク、ただ胸が無いことを知って欲しくて…決してやましい気持ちはなくて…。」
「分かっている、気にしていないよ。」
「良かった…!(ボクが男だと)分かってくれたんですね!」
「もちろん(勇気を出してアピールしてくれたと)分かっているよ。」
どうにか誤解はとけたみたいだ。
ホッとして正面を向くと、高い城壁が見えてきた。
目を輝かせて見上げるボクの頭を優しく撫でながら、アルさんが教えてくれた。
「ようこそ、東の街、イーストウッドへ。」
門の前まで来ると、門番の人がビシッと敬礼した。
「副団長、お疲れ様です!その子は…?」
「草原で魔物に襲われている所を救出した。君は…村から来たのかな?」
アルさんに聞かれて、思わず背筋をのばす。異世界から来たことは、黙っていた方がいいかもしれない。
「遠くの村から来ました!ギルドに行って仕事を探したいです!…あの、お金は持っていません…。」
シュンとして肩を落とすと、アルさんがヨシヨシと頭を撫でてくれる。
「君のことは私が保証しよう。お金も払ってあげるよ。」
「アルさん…!ありがとうございます…!お金は必ず返します!」
大きな瞳に涙を滲ませて、健気に微笑む。アルさんが胸を押さえて震えている。お金を返すのは当たり前のことなのに、感動してくれているみたいだ。
異世界はそんなにシビアなのかな…。
首を傾げて見つめていると、顔を赤らめたアルさんが、ゴホンと咳払いした。
「では、ギルドに連れて行こう。」
門をくぐり、大通り抜けた突き当たりに大きな建物が見えてきた。
剣と杖のエンブレムが掲げられている。
馬から降りて、アルさんの後をついて行く。手を握ったままなのは、もしかしたら子どもだと思われているのかもしれない。一応、17歳なんだけどな…。
ギルドの受付まで来ると、アルさんが獣人の女性に話しかけた。
「この子は村から仕事を探しに来たらしい。草原でホーンラビットに襲われていたところを助けた。その姿はウサギ対うさぎ…可愛らしい戦いだった…。」
あ、あ、アルさーーーん?!
戸惑うボクに構わず、アルさんが続ける。
「この草原、最弱の魔物にも倒されそうな可憐でか弱い少女なのだ。私の可愛らしいラビットに、安全な仕事を紹介してほしい。」
「アルさーーーん!ボ、ボク違います!体力は20しか無いけど、漢らしいムキムキの冒険者を目指していて…!」
「た、体力20?!ホーンラビットより弱いじゃないか!冒険者は絶対だめだ!死んでしまう!」
ボクのあまりの体力の低さに、ギルド内が騒めく。
慌てて受付の獣人のお姉さんに確認すると「冒険者の平均体力は500にゃ。あのホーンラビットすら、100あるにゃ。」と教えてくれた。
思わず倒れそうになったボクを、アルさんが壊れ物を扱うかのように優しく抱き寄せる。
「君は放っておいたら死んでしまう…今すぐ私の屋敷に持ち帰って保護したい…。安全な場所でずっと守ってあげたい…。」
熱い瞳で見つめてくるアルさん。
も、もしかしてスキルの魅了はパッシブスキルなのか…?!
はっ…!スキル!そういえばボク!
「あ!あの!鑑定使えます!」
叫ぶように告げると、受付嬢のお姉さんがこくりと頷いてくれた。
「鑑定なら商人か受付嬢ができますにゃ。」
やった!どうにか仕事が見つかりそう!
嬉しさで思わずアルさんに振り向く。
「ボク、仕事がんばります!(街に入る時に借りた)お金、真っ先にアルさんに渡しますね!」
「…私は貴族だから、(嫁になる君から)お金はいらないよ。」
「ボクがアルさんに(お金を)ちゃんとお返ししたいんです…ダメですか?」
もしかして迷惑なのかな…そう思うと、目尻に涙がたまってしまう。
ウルウルとした目で、口をぎゅっと結んで、ぷるぷる震えるボクに、アルさんが胸を押さえて蹲った。
「君の瞳は卑怯だ…可愛すぎる…分かった、私の負けだ。だが、いずれ君を部屋に閉じ込めるから…。」
ドンッと、長身のエルフに壁際に追い込まれる。耳元に綺麗な形の唇が寄せられる。
「覚悟しておいて、私のラビット…。」
低音ボイスに思わず腰が抜けて座り込んでしまう。
颯爽と去って行くアルさん…まごうこと無きラブシーン…。
だが、ボクは、男なんだよ〜〜〜!
あれだけ言ったのにアルさんに伝わって無さそうな事実に、ボクはがっくりと脱力した。前途多難だ。