言う
嫌なことを思いだした。昔、上司に言われたことばだ。
「お前の本音が見えない」と、報告書を提出するたびに叱責された。必要なことは記載しているつもりだった。いつ、だれと、どこで、何を打ち合わせ何が課題として挙がったが、要望はなにか、英文法の基礎のように要点はおさえているつもりだった。だがそれを見て言うのだ。
「だからどうした」
それはこちらのセリフだった。要望に対処すればいいだけのことではないか。
結局、その会社は辞めた。
同じだった。
彼女は俺に言う。
どうしたいの。そして、どうしたらいいかわからないの。
要望を言ってくれればいいのだ。結婚したいとか、別れたいとか。俺はそれに対処する。簡単なことのはずだ。だが、彼女は泣くばかりでそれ以上は何も言わない。
そして、別れ際に言う。
「決めたら連絡して。待ってるから……」
言うべき言葉が見つからないまま、ただ黙ってうなずいた。