天使大学の大教官
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ここは原宇宙。我々が知る宇宙の概念とは異なり、どこまでも無限に続く無数の巨大な六角形の区画が並ぶ大地の上に無数の天体が浮かんでいる。地平線というものはないが、山もあり谷もあり海もあり、すべての区画は独立して発展していて、天気がよい日はどこまでも見渡すことができる。一見こじんまりしているようではあるが我々の宇宙よりもはるかに密度が濃い世界だ。
原宇宙の住民も動植物も寿命や老化というものがなく、死にさえしなければ、限りなく生き続け成長を続け独自の進化をとげる。
この原宇宙を作り上げたのは原祖神。
無限に続く大地に中心というものがあるのかどうかはさておき、仮に中心とされるこの場所には、これも無限の高さを持つかのように見える巨大な建造物、神の塔が雲を突き抜けてそびえ、塔の下部数キロメートルほどは天使大学の建物を蔵する。神の塔の頂上には原祖神がおわすと言われるが、原宇宙最強の存在たちでさえも、神の塔を登り切って原祖神と面会した者はいない。
無垢で無力な赤ん坊の状態でこの世界に生まれ出る原宇宙の住民達とは異なり、天使達は、生まれながら自分の役目を知りそれを遂行する強大な能力を持って生まれてくる。しかし、住民達のように自由かつ無限に成長し続けるわけではなく、あくまでも役目を遂行する存在であるため、成長があるとしても役目のまわりに限定される。
知識と能力はあっても、天使達も生まれたての間は経験も浅く応用が利かないため、大学で訓練・学習を行うし、任務遂行には上下関係も存在する。
原宇宙は常に無限に成長を続けているので原宇宙の世話係である天使達も、それにあわせて増員されていく。住民には人類が多いが、それ以外もいるので特定区域のお世話をする天使はその区域の住民と似た体を与えられる。
そのため神の塔には、天使の属性にあわせて無数の入り口があり、一階部分の面積は我々が知る大陸ほどの大きさがありそれぞれの入り口は数百メートルずつ離れている。塔の周辺は乾燥した砂漠地帯になっている。
入り口のひとつに、古くさいエンジン音を立てながら空を飛ぶ乗り合いバスががたがたとゆれながら近づいてきた。冷房もなく全開になった窓からは、二十人ほどのベースボールキャップをかぶった若々しい面持ちの天使達が汗をかきながら顔を出している。
天使達の顔立ちは、彫りが深く、髪は金色、赤毛、茶色、目も青、緑、薄茶色が多い、我々の知る西洋人の顔立ちに近い。彼らは戦闘天使らしく全員が例外なく筋骨隆々として、背丈は二メートル前後で大きく白い羽を生やしているが、できたてのほやほやらしく肌は不自然なほどに生白かった。
教官の後からぞろぞろとバスを降りた彼らは、ゆったりとしたローブを着用して、皮のサンダルを履いていた。
天使達は、初めて見る神の塔の偉容に緊張した表情をしていたが、天使にもお調子者がいるもので、くりくりとした赤毛でそばかす顔をした緑の目の天使が大声で盛大に文句を言った。
「なんだよ、あんなに揺れるのなら、自分で飛んだ方がよっぽどましじゃないか。これから世界を守って戦おうってのになんだよこの待遇は。」
列の後方を向いて騒いでいた彼は、急に固い壁のようなものにぶつかり、前をむき直してぎょっとなった。
大柄な天使である彼の目の前にあったのは、さらに巨大な体躯のみぞおちのあたりだった。上を見あげると彼の倍以上に筋肉が盛り上がった三メートルほどもあるひげ面の巨人が大きく真っ白い歯を見せて「そりゃあ悪かったな。」とにやりと口角をつりあげ、若い天使達はあたりを満たす熱気にもかかわらず冷や汗が背中を伝うのを感じた。
天使もこの世界の住民と同じく年を取らないはずなのに、この巨人の髪の毛とひげには多くの白いものが混じっていた。強大な戦闘力を持ってうまれてくる天使達も、この存在がどれほど自分たちを超えているかを肌で感じ、全身の筋肉が緊張してその場を動けなくなった。
この感覚は、彼らを先導する教官も、その年齢にもかかわらず共有しているようで、背筋を不自然なほどにまっすぐにして敬礼をしたままかちこちに固まっていた。
「」