優しさ
「うん。……まあ、こうなるよね」
夕食の時間。
ここで生活したことがあって住み込みで働いているもの以外は、ここに帰ってくる。
ユイが苦手とする人物は仕事についてこそいるが、住み込みで働いているわけじゃあない。
「よかったあ。生きていたんだねえ。アタシ、ユイが死んじゃったらどうしようって」
その人物は帰ってきてからずっと泣き叫んでいた。
「システィもいい加減落ち着いてよ。急に消えたアタシが悪かったから」
ユイがシスティと呼んだ女性。
この女性こそがユイの苦手とする人物だ。
システィとかかわると碌なことがない。
先ほども、帰ってきてユイを見つけたと同時に、ユイに抱き着いた。その時に、ユイを失神させてしまった。
そして、ユイが覚醒すると再び抱き着いて離さない。
「だって、手紙ひとつよこさないんだよ。」
ここの住所がわからなかったから、手紙を出すことができなかった。
こんなことになるのなら、住所位把握しておけばよかったと後悔したのと同時に、システィに心配をかけさせたことへの罪悪感で胸がいっぱいになった。
「ごめんね。システィには心配かけさせてばっかだね」
なぜだかシスティはユイに世話を焼く。
その理由をユイは知りたがったが、それを訊いてはいけないと思い込んでいた。
理由をわからないままに優しくされ続けた。
いつしかそれが当然であるかのように増長した。だから、システィがどれほど不安がっていたかなんて理解しようともせずに、苦手意識から合うことを拒んでいた。
これまでのやさしさに比べたらちっぽけかもしれない。だが、その優しさへの恩返しとして、システィが泣きつかれて眠るまでは離れずにいようと思った。
「もしかしたらさ、またふらっといなくなるかもだけどさ……アタシは絶対に死なないから」
ユイは囁くような大きさの声で力強く誓った。
「うん」
システィの安心しきった顔を見るとユイは眠気に襲われた。
体力はかなりあるが、道とは言えない道を歩き続けたのだ。
本人の意識しないところで疲労は蓄積していた。
それが今になって襲い掛かってきた。
ちょっとだけ堪えて。ほんの少しでいいからさ。
今日はまだたくさんしないといけないから。
それにさ、システィとはまだ喋っていたいんだ。だからさ、眠るのはまだ駄目なんだ。
「ユイはたくましくなったね」
「女の子が筋肉つけて、とか怒らないの?」
「怒らないよ。だって、ユイはずっとかわいいままだから」
システィは優しくユイの頬を撫ぜた。
撫ぜられる感触には言葉にしがたい不快感を覚えたが、システィが自分を愛してくれていることを再度認識した。
その優しさは、別の誰かを自分に重ねているのではなく、純粋にユイのことを持った優しだとユイは理解した。
だからこそ、そのやさしさの理由をユイは知りたいと強く想うようになった。
「ねえ、どうしてそんなに優しくするの?」
「アタシはユイのお姉ちゃんだから」
「どういうこと?」
「う~ん。多分、ユイには、わからないかなぁ。理屈じゃないんだよ。そんなもんだってことなの。アタシのこと、嫌い?」
「大好きだよ。むしろ、どうしてアタシのことを嫌いにならないの?」
こんな甘ったれ、いつ見放されてもおかしくない。なのに、ずっと、うんざりするくらい優しくする。それでいて、その優しさに今まで応えてこなかった。
それなのに、どうして嫌いにならずに優しくし続けられるのか?
ユイはそれが不思議でたまらなかった。




