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悪魔の死神〜ユイ一無二な冒険譚〜  作者: 紅ユウキ
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明かされる素顔

「いやあ、なんとか日が沈み切る前に着けてよかったな」

 日は沈みきっていなかったが、かなり暗くなっていた。

 かなり暗くなっていたせいで、うっかり小屋を通り過ぎそうになっていた。 

「かなりぼろいね」

 小屋は長年手入れされていないせいで、かなりボロボロになっていた。

 窓のガラスは割れているので、風は何に阻まれることもなく小屋に吹き込む。

 それに壁にもいくつか目立つ穴がある。

 ベニヤ板で穴をふさいだりもしていた。

 しかし、そのベニヤ板は役割を果たしていない。

 ベニヤ板は釘を打ち付けられっところしか残っていないからだ。

 外観も中の様子も荒れている建物だけど、野宿するよりはましか、とユイは思った。

「ムカデとかいないよね?」

「最近冷えるし、ムカデだって出てこないんじゃねえの?」

「それならいいんだけど」

 小屋の中は長いこと掃除がされいないのか、大きな蜘蛛の巣がいくつもあった。

 小屋に入ってすぐのところにおかれていたランプも蜘蛛の巣でまみれていた。

 ランプに火をつけようとした瞬間、蜘蛛の巣が燃え出した。そのせいで、火事になりかけた。

 さらに、そのせいでランプが使い物にならなくなった。

「いやあ、アンタがランプを持っていてくれて助かったよ」

「まあ、野宿することとか結構あるしね」

「野宿とか怖くないのか?」

「全然。今日みたいなことがあると思えば、そんなリスク安いもんだよ」

「肝が据わってんだな」

「そりゃあ、自分自身が怖いと思っていることを何度も経験すりゃあ耐性もつくよ」

「そういうもんか」

「どういうことだよ?」

 ニクスは自分の地元の村をあんな何もない退屈なところと思っている。

 それだけにユイはどこに興味を持ったのか気になった。

「悪魔狩り。こういう田舎のほうが上物が隠れていることが多いんだよ」

「ああ……そうなんだ」

 ユイはニクスの表情がこわばったのを見逃さなかった。

「知り合いに悪魔憑きがいるの?」

「えっ……いや……」

 図星だ。

 ニクスは言い当てらえたくないことを一発で当てられたせいで動揺を隠せないでいた。

「大丈夫だよ。悪魔がいなくなったって本人が死ぬわけじゃないんだし」

「だよな。ゴメン」

 ユイはニクスの態度が煮えきらないでいたのに苛立った。

 ニクスは何も言わないが、その態度に言いよどんでいることが現れているからだ。

「どうせ、死神ってのが」

「うっ……頭じゃわかってんでだけどな。そのおどろおどろしい二つ名がどうしてもな」

「まあ、別にいいよ。嫌われるのは慣れっこだからね」

「嫌いだなんて……言ってないだろ」

「ゴメン。なんか別の人と重ねてしまってたよ」

 よりによってあんなやつのことを思い出すなんて……。

 今日はもうおとなしく寝よ。

「じゃあ、お休み」

「寝る時までその恰好かよ?」

 ニクスが困惑したのはユイの姿だった。

 ユイは日中と同じようにフードを深くかぶったまま横になっていた。

「別に君に関係ないでしょ?」

「息苦しくないのかなって思っただけだよ」

「そりゃあ、しんどいよ。もういいでしょ?」

 ニクスは何も言えなかった。 

 何か言えば、この微妙な雰囲気がより険悪になってしまいそうだと思ったからだ。

「そだな。お休み」

 それから三時間ほど過ぎた。

 ニクスはユイとの会話で残ったしこりが気になって深く眠ることができないでいた。

 それでもなんとか眠ろうと目を閉じ続けていた。

 目を閉じ続けているうちに浅い眠りとそれからの目覚めを何度も繰り返していた。

「う~ん」

 ニクスはユイのうなされるような寝息に気付いた。

 ユイの寝息だけで、ユイが苦しそうなのがわかった。

 ニクスはほら見たことか思った。

 素顔を見られたくないからってやせ我慢するから悪いんだ、と内心でユイを責めた。

 仕方ないよな?

 あんなに苦しそうにしてらほっとけないし。

 フードのせいで息苦しくなっているんだったら、大変だし。

 素顔を見られのを嫌がっているのはわかっている。けど、ユイだってこんなことで無駄につらくなるだけなら、いっそ楽にしてあげたほうがいい。

 ニクスはしつこく心に言い訳をして、フードをめくった。

 ニクスはユイの顔を見た瞬間、息が詰まった。

「う~ん」

 ユイは寝返りを打ち、頭に手を当てた。

 その手は何かを探すように頭の近くをうごいていた。

「あれ? あれ」

 ユイはほとんど意識がない状態でありながら違和感を覚えた。

 ユイは確認するように手を頭に当てた。

 それは頭に当てている手から伝わる感覚であることに行きつくのに、時間はいらなかった。

「フードは?」

「悪い。フードなら取らせてもらったよ。寝苦しそうだったからな」

「ああ……そうだったの。心配かけちゃったね」

 ユイは寝起きということもあってぼんやりとしか見えていない。

 それでもニクスがばつの悪い顔だけはくっきり見えた。

 そして、その原因が何なのか考えを張り巡らさなくてもすぐに理解した。

「ああ……見ちゃったんだね」

 深くかぶったフードによって隠された顔は異様という言葉で片づけるには程遠いものだった。

 顔の左側から突き出た骸骨。

 骸骨の口の中で怪しく光る赤い目。

 それは悪魔によって奪われた左目の代わりにうえつけられた悪魔の目だ。

 顔の半分近くが白いセメントのようなものでおおわれた状態になっていた。

 ユイに向けられた化け物を見るような目。

 ユイはこれまでそんな目をうんざりするほど向けられてきた。

 この姿を見て気持ち悪く思わなかった人間を生きてきた中で一度も見なかった。だから、いまさら何の感情もわかなかった。 

 ユイはそう思い込んでいた。

 ユイの体中が痛みを発した。

 悪魔がユイの体を侵食しようとしているからだ。

 悪魔は宿主が絶望すれば、宿主の体をむしばみやすくなる。

 悪魔が体をむしばもうとすると痛みとなって宿主に知らせる。

「なんなんだよ?」

 ユイはニクスに聴こえない小さな声でつぶやいた。

 そして、頭を掻き毟った。

「なんだよ、それ?」

「アタシって悪魔に憑かれやすい性質なんだ。左目のこれは悪魔だよ。ついでに言うと体の五割くらいが悪魔にとられちゃってるんだ」

 ユイはローブを脱いだ。

 中に着ていたシャツのボタンをはずした。

「おいっ。いきなりなにするんだよ?」

 ニクスは両手で自分の目をふさいだ。

「別に目を隠す必要ないよ」

 手で目を覆っているように見せかけているが、目の周囲のところだけ指が開いていることには何も言わなかった。

「そんな言いかたするなよ。まるで、俺がガキの体に欲情する変態みたいじゃないか」

「ふうん。あっそ」

 暗がりではっきりとユイの顔が見えているわけではないが、冷たい視線を向けられているとニクスは感じた。

 ユイの胴体は右半分をニクスに見せた。

 ユイの胴体の右半分に肌色はなかった。

 あったのは白色だけだった。

 およそ人の肌とは思えない質感を持った体表。

 まるでセメントで押し固めたかのようだった。

 ニクスはそれに見覚えがあった。

「アンタもそうだったのかよ」

「そうだよ。悪魔憑きが悪魔憑きを狩っているなんて笑えた話でしょ?」

 それは悪魔によって蝕まれた証だ。

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