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悪魔の死神〜ユイ一無二な冒険譚〜  作者: 紅ユウキ
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 ユイはポケットから紙切れを取り出した。

 そこには簡単な地図が描かれていた。

 ユイは地図を頼りに歩き続けた。

「この辺のはずなんだけどなあ」

 ユイは道の端によった。そして、地図と周囲の風景を見比べた。

「うん。やっぱりあっているようだ」

 ちゃんと地図のとおりに歩けていることは確認できた。

 しかし、目当ての店にはつけないでいた。

「この緑の看板の真向い……」

 ユイは目印である緑の看板のある店の前まではたどり着いていた。

 そして、その真向かいに店を見つけた。

 ユイはその地図に素直に従うことができないでいた。

 それは、その店の雰囲気が喫茶店らしくなかったからである。

 遠目からでも、喫茶店ではないとわかったのはその建物の入り口が大きく開かれていたからだ。

 入り口付近には品物が置かれていた。

「遠目からじゃあわかりにくいけど実は……ってこともあるのかな?」

 ユイは道を横切った。

 都会の中心部への便利な道路ではあるとはいえ、一番の大通りから道を逸れれば人通りは一気に少なくなる。

 地図を信じて道を横切ったユイは落胆した。

 その店はユイの見立て通りだった。

 そこはおしゃれな小物や雑貨を売っている店だった。

 ユイは人をよけようとして、端によった。

 すると、こつんと足が何かを蹴った。

 それは看板だった。

 ユイの膝ほどの高さの看板が置かれていた。

 そこには喫茶はこの上にあると書かれていた。

 看板の矢印の先には階段があった。

「はあ。こりゃあ、わかるわけないよね」

 地図には緑の看板の店の真向いの建物としか書かれておらず、その建物の二回にあるということは書かれていなかった。

 ユイがドアを開けるとカランカランとベルの音が店内に響き渡った。

 ユイは座れそうなテーブル席を探した。

 開いていたテーブル席はほどなくして見つかった。

 ユイは向かおうとしたテーブル席の近くで、どこかで見たような服を着た人物が座っていた。

「なんで君がいるの?」

「なんでって……冷たいなあ。仕事を終えた後のここのコーヒーは格別にうまいんだよ。で、アンタはなんで?」

「ここのココアがかなりおいしい言って評判だから、一度来てみたかったんだ」

「ココアが好きなのか?」

「うん」

 ニクスはカップを持って立ち上がった。

「どうしたの?」

「カップ返しに行こうって思ってな」

「もう出るの?」

「もうって三十分くらいいたからな」

「三十分ってさっき別れてからそんなに経っていないよね?」

「いや、別れて一時間ぐらいになるけど。どうしたんだ?」

「一時間ってそんなに歩いた気がしな……」

 ユイは体力の減り具合から十分ぐらいしか過ぎていないと勘違いしていた。

 そして、そんな風に錯覚してしまう理由に心当たりがあった。

「おい……もしかして今までずっとうろうろしていたのか?」

「そ……そんなわけないし。地図のとおり来たんだから」

 ここに来るまでちゃんと地図通り来た。

 何回か道を間違えそうになったが、その度に地図と自分の場所の関係を入念に確認した。

 だから、大きく道を外れることなくここまでたどり着けた。

「その地図ってのを見せてみろよ」

 ニクスは地図に目を通した。

 かなり簡略化されているが、目印はちゃんと記されていてかなりわかりやすく描かれている。

 これで道に迷うのは逆に困難だと思えるくらいに的確に描かれていた。

 よく見ると地図に細い線が二本描かれていた。

 一本は地図の途中で途切れており、もう一本は町の入口からここまでつながっていた。

 それら二本の線は地図に後から付け足しとように見えた。

「まさかとは思うけどさ、いったん町の入口のところまで戻ってから再びたどったなんてことしていないよな?」

「したよ。誰かさんのせいでアタシが今どこにいるのかわからなくなっちゃったからね」

「誰かさんって俺のことか?」

「さあ、どうだろう? アタシはちょっと歩いていただけのに、あほみたいに諤々震えて恐怖というものを全身で表現する不審者に出会わなければこんなことにならなかったんだけどな」

「他人のことを不審者っていう前に、自分の姿を見たらどうだ?」

「どういうこと?」

 フードを深くかぶり顔を見せないようにしている姿は誰が見ても怪しい。

「てか、いいのか? アンタの正体ばらすぞ」

「やれるもんならやってみたら? そんなことばらしたところで誰も信じやしないよ」

 正体をばらされたところで何もならないという確信ユイにはがあった。

 刃翼の死神はかなり大きな図体をしていると広まっている。

 こんな小柄の女の子が死神だなんて言いふらしたところで、信じる人は誰もいないと見通した。

「はあ。しょうもない見栄張りやがって。犯罪者の情報が正確に伝わっていないんじゃあ、意味ねえじゃねえかよ」

「人を犯罪者扱いしないでくれる?」

 ユイは犯罪者扱いが我慢できなかった。

 悪魔は数えきれないほど殺してきたが、人間に危害は加えていない。

 それで、犯罪者呼ばわりされることに腹が立った。

「いや、悪魔憑きとはいえ、人間を失神させてんだから傷害罪で捕まっても文句はいえねだろ?」

 ニクスの冷静なツッコミにぐうの音も出なかった。

「アンタのことだ。倒れた奴らのケアなんて一つもしていないんだろ?」

「ケアって何?」

「意識を失ったやつを警察に届けるとかだよ」

「なんで、そんな面倒くさそうなことを正体がばれるリスク踏んでまでしないといけないの?」

「意識がない間、何されても抵抗できないんだ。アンタは自分が狩ったやつらを危険にさらしたまんまほったらかしにしているんだ。人間に危害加えまくりじゃね?」

 ユイは何一つ反論できなかった。

 ニクスに指摘されるまで全く気付かなかった。

 ニクスの話を聞いて、死神なんて悪評が広まっても仕方ないかと思えた。

「今度から気を付けるよ」

「一回北口に戻ってここまで来たのか。それでこんだけ元気があるって、すごいな」

 一時間ほど歩き続けても息一つ乱れていないユイの体力にニクスは感心した。

「旅してりゃあ、これ位余裕だって」

 本当はさっき悪魔を狩ったからだ。

 そのことをニクスに言う気になれなかった。

「それもそうか。旅してりゃあ、体力だってつくか」

 本来ならば、ユイとニクスが出会った場所からならここまでほんの数分でたどり着けた。

 それなのにいったん町の入口まで戻ったせいでここまで時間がかかってしまった。

 ニクスはそのことをあえて口にしなかった。

 それを知って落胆したら、ココアを飲む気もうせてしまうだろうと思ったからだ。

「ちゃんと味わえよ。ここのココアもそこらの喫茶店と比べたら別格のうまさだからな」

 ニクスはカップを返却して、店を出た。

 さすがに次はないよね。

 寄り道はここだけの予定で、あとはまっすぐ目的地に向かうだけだし。

 ニクス君のなれた感じって、この町の人だからだろうし。

 町を出れば会うこともないね。

 ユイは考え事をしながら三十分ほどそこで過ごした。

 ユイは店を後にした。

 そのあと、十分ほど歩いて、町に入った時とは反対側の出入り口のところについた。

 そこで見覚えのある人物が目に入った。

 あの特徴を持たないのが特徴と言える姿は彼か。

 偶然にしちゃあできすぎだ。

 これはもう偶然なんて言葉じゃあ片づけられないね。

 一度別れてから同じ日に二度もばったりと出会うのはかなり不自然だ。

 ユイは確信した。

「ところで、どうして君はついてくるのかな?」

「どっちかって言えばついてきてるのはそっちのほうだろ。それに俺はもともとこの道を通る予定だったんだ」

 客観的にどちらがどちらのあとをついて行っているよう見えるかは明らかだろう。

 行く先々でニクスの後ろにいるユイのほうが後をついて言っているように見える。

「つか、アンタも同じ方向なのか?」

「まあね。この先にある村にちょっとした用があるんだ」

「つってもこっちに行ったって何もないぞ。周囲は田んぼや畑ばかりだし、飯屋なんて一軒もないくらいだ」

「なんでそんなこと知ってるの?」

「地元なんだよ」

「ああ……なるほどね」

「こっからならまだ半日くらいかかるんだ」

「そうなの? でも、君も行くんでしょ? どうするの?」

 ユイの頭に野宿の選択肢がよぎった。

 気分が少し落ち込んだ。

 野宿をすること自体には特に抵抗はない。

 人気のないところで一人で寝ることや、野生の動物に襲われることへの不安などはあまりない。

 それでも、野宿をするにあたって一つだけ気が進まない理由がった。

 野宿をすると疲労感が出てくるのが嫌だった。

 野宿をしてもユイの体は特に疲れない。しかし、疲れたという感覚がどこからともなく湧いてくる。

 それが嫌だからあまり野宿をする気になれないでいる。

「こっから結構行ったところに小さな小屋があるんだ。そこで泊まるんだよ」

「へえ、そんなのがあったんだ」

 二人は数時間ほど歩き続けた。

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