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悪魔の死神〜ユイ一無二な冒険譚〜  作者: 紅ユウキ
2章
10/26

死神の夜

「こんな夜更けまで起きて。規則違反よ」

 規則違反を咎めるルネの声に厳しさはなかった。

 それは、ルネがこの時間までユイを起き続けさせたからだ。

 瞼が垂れて、今にも寝てしまいそうなユイの意識を保たせていたのは、この時を待っていたからだ。

 ルネはユイが読んでいた本を見て笑った。

「何?」

「あんなに嫌っていたのに読んでるんだなあって」

 ユイはため息をついた。

「色々あったし、今のアタシなら好きになれるかなって思ったの」

「どうだった?」

「大っ嫌いだね」

「それは残念ね」

 かつて、ユイは今手にしている本を一度読んだことがある。

 内容は他愛もないものであったが、ユイは全く好きになれなかった。

 理由はない。ただただ生理的に受け付けなかった。

 システィが眠ってから、少しの間の時間、全く好きになれない本に目を通して時間をつぶしていた。

 システィを部屋に運ぶほどの力はユイにはない。

 だから、広間で眠っているシスティに毛布を掛けて自分の部屋に戻った。

「それに……仕方ないじゃない。こうでもしないと、誰が聞き耳立てているのかわかったもんじゃないんだから」

 そういうとユイは扉のほうへと目をやった。

「誰かいるの?」

 ルネは扉の向こうにいる誰かへと話しかけた。

 しかし、返事は帰ってこない。

「まあ、ここで返事する馬鹿はいないよね」

「そうね。誰かいるのかしら?」

 気配を消して話を聞こうとしているのに、こんなところで素直さを出すなんてひどい笑い話はない、とユイは笑い飛ばそうとした。

「いない……とは言い切れないけれど、いない、と信じているよ」

 子供たちの闇を好奇心で知ろうとする下種な人間ではないとユイは知っている。だが、下手なおせっかいのために聞き耳を立てている可能性は捨てきれない。それでも、今日あったばかりの子供の心に土足で上がり込むようなまねはしないだろう、とユイは信じている。

 扉の向こうに目をやるだけで、扉を開けて確認しないのは信頼しているからだ。

 赤い瞳は皮膚の内側の悪魔の浸食さえも見ることはできるが、扉の向こうを見ることはできない。

「それに、ここに来るっていうことはわかっていたからなんでしょ」

 みんなが寝静まった夜に話したいことがあるんだ、とルネに言ったわけでも、特別な合図を送ったわけでもない。

 ルネは皆が眠るのを見計らって、ユイの部屋を訪れるつもりでいた。

 仮に、ユイが眠っていたのなら、起こしてでも話を聞くつもりでいた。

「アナタは何を感じたの?」

 ルネの声は不安からか震えていてか細いものであった。

「その前に、どうしてあの子はあんなふうになったの?」

 ユイが昼間にニールから感じ取ったもの。それがどのようにして生まれたのかを知る必要があった。

 奥に秘めている狂気とでもいうべきものをユイは感じ取った。

「あの子の家族は強盗に殺されてしまってね。多分それと関係あるんじゃないかしら?」

 ユイは事件のあらましを聞いた。

 それはとても凄惨なもので、

「なるほど。そういうことか」

「それで、あの子に何があったの?」

「大したことじゃないよ。単純にあの子の笑顔が作りもので、どす黒い何かを一分たりとも漏らしたりしないようしているって感じただけだよ」

「あの子なりに区別しているのよ。かつての家族、家族を奪った犯人、そうじゃない人にね」

「どういうこと?」

「あの子は自分と年の近い子供に兄弟の面影を重ねたり、大人には両親の面影を、あるいは、犯人の面影を重ねていたの」

 時折、ニクスに対して見せる怒りは過去の記憶が掘り起こされたことで湧いて出た感情だった。

「寝ている隙を見計らって悪魔を切ることはできないの?」

「それができるのなら、すでにやっているよ」

 ルネがユイの部屋に来る少し前に、ユイは鎌を携えニールの部屋の前に立った。ドアノブに手をかけた瞬間、悪魔を切るのは不可能だと理解した。薄い壁一枚通してでも感じるニールの警戒心。それはニール自身の警戒心なのか、悪魔の警戒心なのかはわからない。だが、ドアを開けようものならすぐにニールは目を覚ますのだろう、と予想できた。

「日中に切るわけにもいかないし。てか、多分アタシは警戒されてると思うから、アタシに対して隙は見せないよ」

「どうして?」

「あの子、敵意に対してやけに敏感だから。アタシが悪魔に向けた敵意を自分に向けられたのだと誤解しているから」

「だったら、誤解を解けば」

「うん。それはアタシも思った。アタシも彼と仲良くしたいし、誤解は解きたい。だけどさ、誤解を解いたところであの鎌で彼を斬るのだから意味はないのかなって」

「どういうこと?」

「結局のところ、彼は自身または自分に憑いた悪魔に向けられる敵意を自分に向けられたものとして感じ取ってしまう。アタシが悪魔を切ろうとしたとき、どれだけ頑張っても敵意を発してしまう。その敵意を感じ取られるから、誤解を解いたところでうまくやれないなって」

 ニールの神経は敏感だ。

 ニールの中の悪魔に向けられた敵意さえニールは感じ取ってしまう。

 そして、それを感じ取ってしまうから自信に向けられたのだと誤解する。

 その誤解をなくしつつ、悪魔だけを刈り取る方法。

 ユイはそれを考えなければならなかった。

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