閑話1
少し間があきましたが、今日からまた投稿します。
「ねぇ、□□。□□はそれで本当にいいの?」
厳しい部活の帰り、すっかり暗くなった夜道を親友とも呼べる○○と歩いていると、○○にそう聞かれた。
○○が言っているのは部活での事だろうか。
○○はやや興奮気味でワタシに詰め寄ってきた。
「だって、おかしいよ。実力はあの先輩より□□の方が上でしょ?なのに先輩がレギュラーに選ばれて□□が選ばれないってキャプテンが先輩を贔屓してるとしか思えない」
「言い過ぎよ。それにそんな事言ったらキャプテンにも先輩にも失礼よ」
ワタシは○○にそうは言うもの、自分の中に不満がないわけじゃなかった。
確かに先輩よりもワタシの方が実力はあるかもしれないーーーー
そう思う気持ちがないわけでもない。
でも、キャプテンが先輩を選んだ以上は不満を言っても仕方がない事だ。
それにワタシはまだ一年。
活躍するチャンスならいくらでもまだある。
だからワタシは今回は自分を抑え、大人しくする事を決めたのだったがーー○○にはそれが気に入らないらしい。
ワタシの為に怒ってくれている。
「ーーっ!□□はそれでいいの?折角活躍出来るチャンスなのに!」
「ええ、構わないわ。下手に調子に乗ると先輩達の反感を買うのは目に見えてるから」
ワタシは意見を変えない。
人生には仕方のない事がいくらでもあると知人が言っていた。
ワタシはその言葉を今程全くもってその通りだと思った事はない。
ワタシの言葉に○○は聞く耳を持ってないようで、それでも○○はワタシに怒った。
「そんなの……気にしなければいいよ!」
「無理よ。ワタシは○○程強くないもの」
「□□……!私は知ってるよ。□□が夜中に遅くまで練習をしてた事。先輩達に嫌がらせされても、挫けずに頑張ってた事。何度嫌な目にあったのにも関わらず最後まで諦めなかった□□がーーーーそれなのに、自分の事を弱いって言うの!?レギュラーにならないって言うの!?」
夜道に響き渡る○○の声と共に、ポロポロと○○から流れ落ちる涙。
○○はーーーー泣いていた。
「○○……」
それがワタシの事を思っての言葉だと思うと自然とワタシは○○を抱きしめていた。
「○○……。ワタシはね、○○がワタシがやってた事を知ってるってだけで充分なのよ?」
「そんなの……嘘……!□□はレギュラーを取るために頑張ってたんでしょ……!」
嗚咽を漏らしながら涙目でワタシを見る○○。
「うん。そうね。確かにワタシはレギュラーを取りたかったわ」
「じゃあーーーー!」
「でもね、○○」
それはね。
「ーーーーワタシは○○と一緒にレギュラーを取りたかったのよ?」
「!?」
ワタシは○○に向かって微笑み、その頭を撫でた。
「○○。ワタシは○○と一緒に試合に出たいからこれまで頑張ってきたのよ?○○がいたから部活も頑張れたし、○○がいたから先輩の嫌がらせにも耐えられた。
なのに、○○と一緒に出られない試合なんて価値なんてないわ」
「何で……!どうして……!」
○○の顔は既にもう涙でグチャグチャで、ワタシはハンカチを渡そうとすると、○○はそれを受け取らず、ワタシに背を向けた。
拒絶するような○○の態度にワタシは驚き、目を丸くする。
そして○○は儚げに呟いた。
「□□……私は□□の事を家族みたいな存在だって思ってるんだよ」
「○○……?」
そう○○が寂しげ言う言葉にワタシは不安を感じた。
「……私は□□が嫌な目にあうのはもう耐えられない。だから、□□が何もしないなら私がどうにかする。必ず□□を救ってみせる」
○○の足音がどこか遠くへと遠ざかっていく。
ワタシはそれを追いかけようとするが、既に○○の姿は見えない。
「○○、待って!どこに行くの!?」
ワタシの叫びが夜空に響く。
その叫びは○○には聞こえたのか聞こえなかったのかはワタシには分からなかった。
けれど、星が輝く夜空にぽつり、と。
「……大丈夫だよ。私がーーーー□□を必ず守るから」
そんな悲しげな声が聞こえた。