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割りに合わない家族  作者: 白菜
第一章
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第七話

「……蒼波、次はあっち」


「ちょっと待ってよリリサ。僕、もうヘトヘトなんだけど……」


変態騒動からひと時経ち、僕はリリサとプールを回っていたんだけど、さすがに二時間ぶっ続けの水泳は体に堪えるものがあった。


「……まだ、遊びたい」


僕のギブアップ宣言に頬を膨らませながら、不満を漏らすリリサ。


そうは言っても僕はもう限界だし……。


どうしたものかと僕が悩んでいると、目にあるものが留まった。


「リリサ。あれなら一人で行けるんじゃないかな?」


僕が指を指した方向にあるのはリリサくらいの子供がたくさんいる子供用のウォータースライダー。

キャッキャッと楽しそうに騒ぐ子供達を見て、あれならリリサでも問題ないだろう。


「……行ってくる」


「そうしなよ。僕はリリサが遊び終わるまでこの辺にいるからさ」


手をひらひらと振り、見送る僕にリリサは一直線にウォータースライダーに向かった。

僕は体を休めたかったので、近くにあったベンチに腰を下ろした。


「はぁー……疲れた……」


大体、朝のテロリスト襲撃から始まって、学校じゃ殴られ、火事が起こって、プールに来たら変態騒動で嫌なものを見せつけられるわ、酷いアトラクションの罠やらで僕の体力と精神がかなり失ったりと、今日はビックリするくらいに酷い目にあってるんだ。そんな状況でリリサのハードな遊び付き合わされたら……それはキツイに決まってる。

というか、これで疲れない方がどうかしてる。


「だから、僕がもうしばらくは静かに過ごしたいって思ってる所に……なんで由々が来るんだよ!」


「やっほー! 蒼波君!」


「帰れ! 僕の一瞬の安らぎを返せ!」


僕の前に現れたのは未だ朝からテンションMAX状態の由々。


現れただけで最悪な状況になる死神が登場して来た。


本気でコイツ何をしに来たの!?


頭の血管を引き攣らせそうになる僕に由々はどこからか買ってきたジュースを一本、差し出してきた。


僕は軽く驚きながらも、素直にそれを受け取った。


由々はそうして、自分の分のジュースを飲みつつ、自然な動作で僕の隣に座った。


「で、どうなの? 三日間、リリサちゃんと過ごして?」


急に質問をされる。

いや、そう言われても……。


「大変だったとしか言えないよ」


「にゃははははっ! それもそうか!」


バシバシと僕の背中を酔っぱらいのように叩く由々。


痛いから。普通に地肌だから。


「それにこれから由々も加わるとなると……不安にしかならないね」


「それは褒め言葉? だったら嬉しいな!」


「いや、明らかに貶してるでしょ……」


皮肉や悪口さえ、笑って受け止めてしまう由々の明るさ。


物事を素直に考えられない僕にとっては正直、それが羨ましかった。


「……確かにさ、リリサとの生活は大変だったよ? 子供だからさ、我儘な事もあったし、手の妬ける事もあった」


理不尽な事もあったし、どう接していいのか悩みもした。


そんなに苦労して、得られたのはおじさんからの七万円。


こんな頼み事、割りに合わないどころの話じゃない。大損だ。


挙げ句に三日間という約束も反故され、いつまで預ければいいのか分からない状況にまでなった。


でも。だけどだよ?


「でも、僕は楽しかった。色々と苦労もあったけど……大変だったけど……それでもだ」


この三日間、僕は本当に苦労した。


それでも僕がこの三日間を楽しいと思えたのは、リリサが、家族がいたからに違いない。


「にゃはは、そう思えるなら良かったね」


「……全くだね」


ジュースを口に含む。

シュワシュワと炭酸の味がした。コーラだった。


「……これはさ、口にするのも恥ずかしい、僕の勝手な妄想だけどさ」


「ん? 何?」


恥ずかしい話と言ったのにも関わらず、それをからかおうとはしない由々。


そういう所が由々のいい所だ。


そう思いながらも、僕は話を続けた。


「おじさんがさ、僕にリリサを預けたのは僕に家族を知ってもらいたかったんじゃないかって思うんだ」


「家族?」


「うん。僕は事情であまり、家族を知らないって事は由々も知ってるよね? その事におじさんは何か思う事があったのかもしれない。だから、リリサを拾った時、僕に預ける事を考えたんだ」


「……単に面倒だったからかもしれないよ?」


「そうかもね。実際、僕もそう思ってたし」


だからこれはただの妄想だ。


なんて事はない。そんな事あり得るはずもない現実だ。


「それでも構わない。僕はそれでいいって考えてる」


「どうして?」






「僕とリリサがーーーー家族である事には変わりはないからだよ」



結局、僕はリリサと、家族と一緒に過ごしたかったんだ。


断言できるけど、三日前ならそんな事微塵も考えもしなかった。


おじさんの意図があったのか、なかったのかは分からないけど、僕は家族を知った。

だから、妄想が間違いでもいい。


「僕は家族として、リリサと一緒にいたい。大切にしたい」


残ったジュースを飲み干す僕。


……やがて、由々が口を開いた。


「……何と言うか、蒼波君らしいね」


「なんだよ、僕らしいって」


「なんだかんだ言って、素直な所がだよ」


由々はベンチから立ち、飲み干したジュースのゴミをゴミ箱に捨てると、僕に向かって手を差し伸べた。


「蒼波君。お願いがあるんだけど……」


「うん、分かってるよ」


「私の事も……家族だって認めてくれる?」


僕は笑いながら、その手をしっかりと握った。


「全く……割りに合わない家族だなぁ」


「にゃはは、本当だね」


遠くでリリサが楽しそうに遊ぶ姿が見えた。


由々はそれを見て、僕の腕を引っ張った。


「ゆ、由々?」


「私達も泳ごうよ! 蒼波君!」


「いや、あそこは子供用だし……大体、僕は疲れて……って、うわっ!」


「そんなの関係ないよ! とにかく泳ごう!」


「分かったから、引っ張るのは止めてって……仕方ないなぁ、もう」



リリサはこっちに向かって手を振って僕達を待っていた。


由々が先に走って行ったので、僕はそれを追いかける。






この日、僕の家族は三人に増えた。

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