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割りに合わない家族  作者: 白菜
第三章
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第二十話

実力は確かにあった。


レギュラーを取れる自信は自分でもあった。

だから、頑張って、頑張って、練習をした。

努力をした。


実力があったせいで先輩達にイタズラをされても、平気だった。


ワタシは頑張った、頑張った……。


上履きに画鋲を入れられようが、部活の用具がゴミ箱に捨てられていようが、我慢した。


我慢をして、親にも先生にも、かけがいのない親友にも……。



中村先輩に階段から突き落とされても、ワタシは何も言わなかった。

その事が原因でレギュラーから外されても、親友に笑って誤魔化せるくらい大丈夫だった。



なんて────そんな事あるわけがないッ!!


本当は悔しかった!

あんな卑劣な連中にずっと笑われるのが!


本当は悲しかった!

頑張って練習してたのに、レギュラーから外されるのが!


本当は泣きたかった!

親友に全てを打ち明けて楽になりたかった!


本当は、本当は────



心の中で、ワタシは叫んでいたんだ。

悔しいって。

悲しいって。

泣きたいって。

楽になりたいって。



その思いにワタシの親友は答えてくれた。


仕返しを。

報復を。

復讐を。

全てワタシの親友はやってのけた。



止めようとは考えた。

馬鹿な事はよしなさい、と声をかけようかと思った。

でも、止めようとしたワタシの手が逆に止まってしまった。


何で? どうして?


理由は簡単だった。


そっか。

先輩に仕返しを、報復を、復讐を他の誰よりも願っているのが……ワタシだったからなんだ。


全然、大丈夫じゃなかったから。

ワタシが醜い人間だったから。

だからワタシは親友を──由々を止められなかった。

ううん、止めなかった。


由々が先輩のバイクに細工をした、あの時だって、ワタシは気づいていたのに止めなかった。

それどころか、先輩のバイクを移動させて、事故が起きるように仕向けた。



そしてワタシは──全てを失った。



全部、自業自得だった。

しかも、由々に深い傷を負わせてしまった。

由々は自分がワタシを怪我を負わせた、とそう勘違いをしてしまうだろう。

ワタシのせいで……。


もう顔も合わせる事すら出来なかった。

ごめんね、と一言、言う事さえ出来なくなった。

もうどうしようもなくて、どうしようもなくて……。


由々が学校を辞めたと聞いて、ワタシは正直、ホッとした。

このまま、二度と会わなければそれでいいと思った。

けど、会ってしまった!

もう、誤魔化す事も出来ない!



結局のところ、ワタシは由々に会うのが怖くて逃げた卑怯者だった。


自分が傷つく事を恐れて、逃げた卑怯者。


本当に、本当に最低だった。





人間、誰しも強いわけじゃない。


ここはゲームや漫画じゃない。

だから、普通の人間の僕達は皆、とっても弱いんだ。


奏瀬さんもそうだった。

傷ついている事を必死に隠し、誤魔化す。

けれど、いつかは我慢が出来なくなる事なんて当たり前の事なんだ。

頑張った事を卑劣な行為に踏みにじられて、悲しまないわけがなかった。怒らないわけがなかった。

本当に当たり前の事なんだ。



「…………!」



奏瀬さんが由々に向かって口をパクパクとさせる。

声帯が潰れているため当然、声は全く出ない。

だけれども、奏瀬さんが由々に何を言いたいのかははっきり伝わって来て……その事が逆に辛かった。


二人がやった事は正しくない。

結果的に二人は互いに裏切るような行為をとってしまったのだから。

でも、それでも、こんな事になってしまったとしても、伝えたい思いはあるはずだ。

それが奏瀬さんには──出来ない。



「…………! …………!」



嗚咽が混じりながらも、喉の奥から声を出そうとする様子が奏瀬さんの姿からよく分かった。

出せない。

たった一言でいいはずなのに出来ない。

決して、文字で伝えていい事じゃないから。

この瞬間、今、一秒でも構わない。

神様でも奇跡でも何でもいい。


どうか、奏瀬さんの言葉を──言葉を────



その時。

僕の後ろで何かが光った。


直視が出来ない程の強い光。

けれど不思議と温かく、心地よい光。


その光を発しているのが、リリサだという事に気づいたのはしばらくしてからの事だった。


青白い光。

その光がリリサの体を包み込むように光っていた。



「リリサ……?」



漏らしたその言葉もリリサには聞こえてないようで、ぽぅ、と光を発するだけだ。


発した光が奏瀬さんに向かって体に吸い込まれていく。

不思議な事にその光景に僕以外、誰も気づいていないようで、僕以外の全員の目は奏瀬さんに向けられていた。


一体、何がどうなっているのか分からないまま、リリサから発する光がどんどん吸い込まれる。


そして──



「……ご、めん」



奇跡が起きた。


聞こえるはずのない声。

伝わるはずのない奏瀬さんの言葉。


けれど、確かに聞こえた。

伝わった。


ごめん、と謝罪の言葉が。



全員の目が見開く。

奏瀬さん本人でさえ、驚いていた。



「あ、あれ? ワタシ、どうして……」


言葉はもう要らなかった。





リリサ、奇跡って信じる?

実を言うと僕はさ、今までそんなものを信じてはいなかったんだ。

奇跡っていうのは、起こりようのない事のことだからね。

でも、あの時、皆は信じてはくれなかったけど、僕にはリリサが奇跡を起こしたように思えたんだ。

僕の見間違いかな?


まぁ、それはともかく、確かに僕はあの時、奇跡を見たんだ。

絶対に起こりようのない事があの場で起こったんだ。

信じていなかった事が目の前でね。

だからさ、僕も少しは奇跡ってやつを信じてみようかと思うんだ。


僕とリリサが出会ったのも思えば、奇跡だって言えるかもしれないしね。

……これだけ、奇跡って言うと言葉が軽くなっちゃうかもしれないけどね、僕にとっては十分過ぎる重さなんだよ。


だって、それだけ大切だから。

だって、それだけ幸せだから。


なんて、ね。




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