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割りに合わない家族  作者: 白菜
第三章
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第十七話

「テレサさんが由々が高校に通っていた時の友達……?」


知り合いだとは思っていたけれど、まさかそんな関係だったなんて。

しかも事故の被害者?


「奏瀬さんはもう一人の事故の被害者である中村さんのバイクの転倒に巻き込まれてしまったんです。その事故で声帯を傷つけてしまい、声を出せなくなったと聞きます」


「言葉を発する事のない少女……見事に青海後輩の証言と一致している。これは断定してもいいだろう」


「そのようですね。ただ、問題は……」


「さっきも言った通りこの事故の裏に一体何があったか、という事だろう?」


戸惑う僕を放って孝一と部長の会話が進む。

なんだか妙な疎外感を感じてしまい、慌てて発言をした。


「ふ、二人共さっきから事件の裏が、とか言ってるけどどうしてそう思ったの?」


「先程の綾崎さんの反応からですよ。奏瀬さんが本当に事故っただけなら綾崎さんが奏瀬さんから逃げる理由なんてないですからね。奏瀬も同様です」


「という事はだ。その事故はただの事故ではなく、何か裏に隠された事件かも知れないと考えたわけだ」


「ちなみにですが、部長さんはその事をどう考えているんです?」


考えを述べるように孝一が部長に話を振る。

それに部長は、


「……今の時点では証拠がないから何とも言えないが、綾崎のあの異常な反応を見る限りでは一つの可能性が考えられた」


「その可能性とは?」



「バイクの転倒は事故ではなく、綾崎がバイクに手に加えた事による事件だったという可能性だ」



全員、絶句。


そんな事あるわけない、とは言い切れない。

由々が綾崎さんから逃げた理由。

それが事件を起こした罪の意識によるものだったら説明がつく。

寧ろ、可能性としては高い方な気がした。

でも──


「……信じられないよ。そんな事」


自分でも驚く程弱々しい声が漏れた。

本当は分かってた。


信じられないんじゃない。


信じたくないんだ。

由々がそんな事するわけないって思いたかったんだ。

都合良く、自分勝手に───。


俯き、歯を食いしばるようにしていると、部長が今までにないくらい真面目な表情を浮かべ、僕の顔を覗き込むようにして言った。


「青海後輩。さっきも言ったがこれは一つの可能性で、証拠も一つもない。だが、もし本当に私が言った事が当たっていたとしても、今みたいに信じたくないとは言うな」


厳しい言葉。

更に部長は言葉を続ける。


「真実が残酷で救いようのない事なんて幾らでもある。そこから目を逸らすのは臆病者がやる事だ。分かったか?」


「……はい」


「よし、ならいい」


返事をするも僕の中ではまだ整理がつかなかった。

本当に由々が事件を起こしたと判明した時、僕はその事実を受け止められるだろうか。

信じられるだろうか。

臆病者でいられずにいるだろうか。


分からない。

もうすぐ真実が分かるかもしれないのに。

未だに僕は目を逸らしたままだ。

向き合えない。


「棡原後輩。事故の証拠品について調べたい。警察署の方に頼んでくれるか?」


「了解しました。お一人で?」


「いや、もう一人連れてく奴がいる。青海後輩。私について来い」


「え……?」


だというのに、部長は僕に考える暇も与えてくれなかった。


「綾崎はお前の知り合いなんだろう? 親しい人物が一番に真実を知ろうとしないでどうするつもりだ」


部長の言う通りだ。

理屈は分かってる。

多分、部長が正しい事しているんだろう。


「……」


でも。

僕は動けなかった。

真実を知ろうとするのが怖かったんだ。

僕は完全に──臆病者だった。

そんな事をしても何も変わらない事を知っているのに。

さっきだって部長の言葉に頷いたのに。


「青海後輩? どうした?」


部長が心配そうな顔をして近づいてくる。


あまりの葛藤で気分が悪くなり始めた時。


誰かが僕の手をぎゅっと握った。

この手は……。


「リリサ……」


リリサは僕の手を引っ張り、自分と目線を合わせるように僕をしゃがみ込ませた。


僕とリリサ。

目線が合った。


そうしてリリサは。


「……大丈夫」


「え?」


「……蒼波なら大丈夫」


にっこりと笑顔を作り、断言した。


「……蒼波は由々が本当に事件を起こしたって疑ってる?」


「それは……」


「……わたしは由々がそんな事するわけないって思ってる。由々は優しいから」


そのリリサの発言にちょっと待った、と部長が横から口を挟んだ。


「信じるのは結構だが、そうでなかった時、傷つくのは自分自身だ。それでも──」


「……構わない」


「ん?」


「……傷つくのを怖がって由々を信じられなくなる方が嫌。だからわたしは由々を信じる。信じたい」


僕は本気で驚いた。

人と会話するのが苦手なリリサがここまではっきりと自分の意見を言うなんて。

傷ついても構わないと言えるなんて。


「……それにもし由々が事件を起こしたんだとしても、何も変わらない。だって────」





「──由々とわたし達は『家族』だから」




「リリサ……」


「……蒼波。蒼波も由々もわたしも皆、家族。蒼波は家族を信じられない?」


「……いや、信じるよ。絶対」


「……なら、信じて。その上で真実を明らかにして」


家族。

その言葉を信じていいんだろうか?


もしいいんだったら……。


「──信じるよ」


僕は臆病者でいい。

でも、怖がりながらも絶対に真実は明らかにする。

由々を信じたい。

変わらない、とリリサが言ってくれたから。


「全く……お前らは本当に……」


呆れるような部長の声。

でも、その表情は少し嬉しそうに見えた。


「すいません部長。僕は頭が悪いんです」


「本当だな。……まぁ、結局はお前らが決める事だからな。いいんじゃないのか、そういう選択も」


素直じゃない、僕はそう思った。


「行きましょう、部長」


「言われなくてもな」


由々とテレサさん。

過去の事故に一体何があったのか──。

まだ何も分からないけど、僕はもう一度心の中で誓った。


僕は家族を信じる、と。

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