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割りに合わない家族  作者: 白菜
二章
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第九話

どうしても用事があると投稿が遅れてしまう……(泣)

「気になるのだが、私のコーヒーは何故こんなに苦いんだろうな?」


「……それは部長が知ったかぶって、ブラックを頼んだからでしょうに。どうするんですか、それ?」


舌を出し、顔を歪ませる部長に呆れた表情でカプチーノを飲む僕。


駅前の喫茶店から少し離れた別の喫茶店。

そこで僕達は互いに向かい合ってコーヒーを飲んでいた。


「ふむ……さすがにこれは飲めないな。なら、青海後輩の物と――」


「しませんよ。部長の自業自得でしょう。何が嬉しくて苦いコーヒーを飲まなきゃならないですか」


「『グフフ……部長の間接キス、ゲットだぜ!』」


「勝手に僕を孝一みたいな変態野郎に仕立てあげないでください!」


結局、場所を変えても部長のボケは収まらないようで、ツッコむはめになる僕だった。


「……それで、大事な話って何なんですか?」


僕はいい加減イライラしてきたのでさっさと

本題に入ろうとした。


部長はテーブルにあった砂糖を自分のコーヒーに4、5個入れ、かき混ぜると、やけに真剣な顔つきで僕をじっ、と見つめた。


「……話を聞く前に青海後輩に一つ確認したいのだがな。お前は口が固い方か?」


「人並みには。……あの、僕以外には言えない事何ですか?」


「いや。けれど、あまり吹聴はされたくない事だな」


「……驚きましたね。部長に世間体を気にする繊細な心があったなんて……」


「……お前は私を何だと思っているんだ?」


不機嫌そうな顔で僕の前で拳を握りしめる部長。


僕は身の危険を感じたので、それ以上は何も言わなかった。


「……まぁ、いい」と吐き捨てるように言う部長。


「青海後輩はこの前の学校での火災は覚えているな?」


「覚えてるも何も……散々ニュースや新聞で取り上げられたですし、実際に僕はそこにいましたからね。多分、一生忘れないと思いますよ」


下手したらトラウマものになっていたあの時の火災の光景が頭によぎる。


確かその時はリリサもいて、散々なお出かけになっちゃったんだっけ。


「あの火災がどうかしたんですか?」


「うむ。実はな、あの火災の原因が未だに分かっていないらしいのだ」


「ああ、孝一の奴もそう言ってましたね。まだ分かってなかったんですか?」


「手がかり一つすらな」


火災は誰もいない家庭科室で起き、火元は不明。近くには不審者どころか犬一匹すら見かけなかったみたいだ。


……あの時はあまりに気にしなかったけど、こうして改めて考えるとおかしな事件だよね。


「その事件に私も興味を持ってな。もう既に色々と探ってたいるのだがーーーー如何せん、発展がない」


部長はコーヒーをすすり、鞄から取り出した紙束を僕に向かって投げつけた。


これは……事件の資料かな?


僕にはもう部長が言いたい事が分かっていた。つまり……


「……僕に事件解決の協力をしろと?」


「そうだ。やってくれるか?」


「僕としては断る理由はあまりありませんけど……部活の活動なら、どうして孝一や紅葉先輩も呼ばないんですか?」


「これは部活の活動じゃなく、私個人の頼み事だからに決まってるだろう。……理解したか?」


部長に僕がパラパラとめくっていた資料を無理矢理取り上げられる。


ああ、もう少し見たかったのに……。


「で、どうなんだ? やってくれるか?」


軽くしょんぼりする僕に部長が頬杖をつきながら、聞いてくる。


答えはイエスだと決まってたけど、僕は一つだけ疑問に思った事を口にした。


「部長はどうしてこの事件に興味を持ったんですか? この手のものなら、部長なら簡単に解決出来るでしょう」


それとも簡単には解決出来ない事件なのかな?


僕がそう聞くと、何故か部長は少しの間、意味あり気に窓の外を見た。


「……青海後輩。私は今までオカルトという言葉が嫌いだったんだ。科学では分からないものを誤魔化すための言葉だと思っていた」


「はぁ……」


「それが何か?」と思わないわけでもなかったけど、一応、相槌をした。


「……だが、時にはそのような言葉を使わなければならない事もあるのかもしれない」


「と言うと?」


「科学では説明出来ない事が世の中にはあると言う事だ」


部長がまた、僕に向かって資料を投げつけた。


ん? 何かこれ、さっきより重くないか? 別の資料なのかな?


不思議に思いながらも、パラパラと紙をめくった僕に目眩が襲った。


「なっ……! 何ですかこれ!?」


受け取った紙束にはさっきの綺麗にまとめられた事件の資料とは違く、黒い文字と数字で真っ黒に埋め尽くされている紙束。


何だ!? 呪いの手紙か!?


「言っただろう。科学では説明出来ない事もあると。それが証拠だ」


「証拠って……。もしかしてですけど、この紙って……!」


「資料から思いつく限りのトリックや事故の可能性……外部からの侵入方法が本当になかったなんてものもやったな」


絶句する僕。


本気で? この紙束、ざっと百枚くらいあるんだけど……それを全部一人で?


驚きながら資料を見る僕の耳に部長の渇いた笑い声が聞こえてきた。


「私じゃ……一人じゃ無理だったんだ」


諦めるような小さな声と共に悔しそうに歯ぎしりする部長。


いつもの自信満々の部長とは考えられない姿に僕は少しだけうろたえた。


「ぶ、部長……」


「……だから、青海後輩。私に力を貸して欲しい。こんな事件に詰まってるようじゃ駄目なんだ……!」





――駄目なんだ……!


その言葉が僕の頭の中で響き渡る。


ああ、そうだ。

確かあの時も――そうだった。


行ってしまうあの人の背中をただ見つめるだけで――



――駄目なんだ。駄目なんだよ。


――僕じゃ、駄目なんだ……!



そんな、言い訳をずっと呟いていた。








「――青海後輩?」



部長に呼びかけられ、はっ、とする僕。


……僕は何で今、昔の事なんて思い出したんだろう。


「随分、顔色が悪いようだが……大丈夫か?」


「ええ……まぁ、はい」


「無理はするなよ。今言った頼みもお前の出来る範囲でいい」


「……分かりました」


ぼうっとしてしまう僕を部長は心配そうにもう一度見た後、じゃあな、と言い残し、店から出て行った。



「……部長でも分からない事件、か」


僕は残ったコーヒーをすすると、テーブルの領収書に気づいた。


……どうやら、支払いは僕持ちらしかった。

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