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割りに合わない家族  作者: 白菜
二章
10/24

第八話

プールに行った日から一週間が経った。


新めて由々が家族の一員になって始まった生活。

始めはどうなる事かと思っていた生活だけど、今の所、何の問題も起きてはいなく、概ね良好だ。


一番懸念してたリリサと由々の仲だけど、僕は基本的に昼はバイトなので由々にリリサを預けていたからなのか、徐々にリリサも由々に心を開き始め、今では夜中にゲーム合戦を行うまでに仲が良くなっている。


……それは良い事なんだけど、夜中にうるさくするのは頼むからやめて下さい、本気で。


それに我が家の経済も由々がいるお陰でそれなりに潤ってる。

これなら、これから生活してく分は問題なさそうだ。

もちろん、バイトを続ければの話だけど。



まぁ、そんなこんなで割と平和な暮らしを送っていた僕達だったのだけど、その平和がすぐに終わりを迎えるとは誰もが思いもしなかっただろう。


事は日曜日の朝――





『大事が話がある。午前10時に駅前の喫茶店に来てくれ。


from 上神』



僕はコーヒーを飲みながら、携帯画面をまじまじと見ていた。


部長からのメールというのが珍しかったのもあるけど、あのトラブルメーカーの部長から大事な話があるというのも珍しかった。


大事な話って……部長の事だ、告白とかそういったものじゃない事は分かってるけど、それなら何なんだろう?

火災のせいで部活をしばらく無しにするとかそういう話かな?

いや、それならわざわざ呼び出しなんてしないし……。


一体、僕に何の用なんだろうか?


「なーに、見てるのかな? 蒼波君?」


「うわっ、由々」


うーん、と唸っていると、横から由々が画面を覗き込んできた。


マズイっ。このメールを見られたら、確実に誤解される。


何とかして誤魔化さないと、と慌てる僕に今度はリリサが僕の方に寄ってきた。


「……蒼波、何それ?」


リリサまでも!? これは本当にマズイっ!


「な、何でもない! ただの迷惑メールだよ!


「迷惑メール? それにしては随分と真剣な顔つきで睨んでみたみたいだけど……」


「……何か、隠してる?」


刺すような二人の視線。

じりじりと部屋の壁際に追い詰められて行く僕。


「……いや、それはその……」


咄嗟にいい言い訳も思いつかなく、言い淀んでしまう僕に更に二人が近づいてくる。


「……蒼波、それ、渡して」


「大人しく観念した方が身のためだよ?」


二人がそうは言うもの、これを見られたら確実に酷い目にあう事くらい僕でも分かっている。


渡すわけには絶対いかない。

となれば、残された選択肢は一つだけだ。


「二人共、落ち着いて……」


宥めるような仕草をしつつも、僕は携帯を体の後ろに隠しながら、家の電話に発信した。


そして、プルルル、と目論見通りに家の電話が鳴った。


二人がその音に反応し、振り向いた隙に僕は全力で家から飛び出した。


見事、二人をだし抜いた僕は馬鹿にするような口調で別れを告げた。


「じゃあねー! 二人共! 昼食までには帰ってくるからよろしく!」


僕の作戦にまんまと引っかかった二人は当然のように怒り、僕に向かって悔しそうに叫ぶ。


「蒼波君! 後でたっぷりと聞かせてもらうからね!」


「……蒼波、覚えていて」


禍々しいオーラを発するリリサがちょっと怖かったけど、今回ばかりは勘弁してほしい。


腕時計を見ると、針は9時半をまわっていた。


……時間がないな。早く行かなきゃ。


昼に起こるであろう虐殺を想像しながら、僕はそのまま、目的地まで駆けて行った。



「うわぁ……会いたくないなぁ……」


時間ギリギリで指定された場所についた僕を待っていたのは、呼び出し人が店のテーブルでトランプタワーを作っているという大変シュールな光景だった。


思わず、僕は店の中で見つからないように柱に隠れた。


部長は何がそんなに楽しいのか、熱心にトランプタワーを作り続けていて、店員の「お客様! 他のお客様のご迷惑になるので、おやめください!」と言う言葉も聞こえてないらしい。下段のバランスを調整するのに夢中だ。


「てか、本当にあの人は何をやってるんだろう……」


そんな光景に思わず頭を抱えられずにはいられなかった。


呼び出し相手を待ってる間にトランプタワーを作成って……時と場所を選んでください、とツッコミたかったけど、今ツッコめば、僕も部長と同じようにここにいる客から白い目をされる事は間違いなしだ。


僕はやりきれない思いを柱へとぶつけ、そのまま柱を離れようとはしなかった。


しばらく、僕はその様子を遠くから見ていると、一人の客が部長の座っているテーブルを横切った、その時。


その客の足が部長の座っているテーブルに当たり、振動を与えた。


「あ」


どこからともなく漏れるような声と共に崩れるトランプタワー。

バラバラと一枚一枚のトランプが床にひらりひらりと落ちて行った。


俯き、プルプルと震える部長。


一方、その事に気づかないで店を出て行く客――。




僕は戦慄した。


なんて事だ! 一瞬にして、罪のない一般人に死亡フラグが!


すでに部長はリリサと同じようなオーラをだしつつ、目標にロックオンをかけ、今にも襲いかかりそうな雰囲気をだしていた。


「……ふざけるな。私の崇高な芸術作品を……! 一瞬で……!」


ブツブツと何かを呟きながら、あの客に歩み寄る部長。


「待ってください、部長!」


さすがにこれは見過ごす事は出来ないので、部長の前を制す僕。


僕の登場に部長は眉をひそませたけど、それだけだったようで、低い声で「……どけ、青海後輩」と更に黒いオーラを放出する。


「大体、部長が店中なんて所でトランプタワーを作ってるのが悪いんですよ!」


「だが、アイツは私の作品を……! ええい、どけ! 青海後輩! 奴の頭をトランプタワーと同じようにバラバラにするんだ!」


「そんな台詞を聞いた後でどくと思ってるんですか!?」


そんなグロい光景を僕は見たくない!


それでもあの客に襲いかかろうとする部長を僕は羽交い締めし、店の外へと連れ出す。


「離せ! 青海後輩! さもなければ、お前の家にトランプタワーを送りつけるぞ!」


「地味な嫌がらせはやめて下さい! というか、大事な話があるんでしょう? それならそんな事をしてる場合なんですか!?」


「うっ……」


言葉を詰まらせ、動きを止める部長。


どうやら、分かってくれたようだ。


くそっ、と悪態をつきながら地団駄を踏む部長は本当にトランプタワーを壊された事であそこまで怒ってたらしい。


……なんだかアホらし過ぎてツッコむ気にもならない。


軽い頭痛を起こした僕はため息をつき、部長に呼び出しの理由を聞くことにした。


「それで部長、大事な話って何ですか?」


「待て、それは長い話になる。何処か座れる場所に行かないか?そうだな……この喫茶店にーーーー」


「行きませんよ! 絶対!」


どんな脳みそをしてるんだろうか、この人 。

ちなみに部長の恐ろしい所はこれを素でやってる所だ。

天然の度合いを軽く越えている。


「いや、今は何故か騒がしいのだか、いつもは静かでいい所なんだ」


「騒がしくなったのは明らかに部長のせいなんですけど!? 他の場所に行きましょうよ! 他!」


僕は白い目で見られて、平気な顔をしながら会話する程、器用でも、大物でもないんだ!


「むぅ……青海後輩がそう言うなら仕方ないな。それなら、あそこの場所にしよう。ほら、あのキラキラ光ってるーーーー○チンコの文字」


「パチンコ屋を下ネタに使わないで下さい! というか、それが言いたかっただけですよね!?」


「それもあるが……つい、青海後輩のツッコミが面白くてな」


「からかってたんですね! ああ、そうですか!」


ははっ、と笑う部長。

凄く殴りてぇ……。


というか、どうして待ち合わせの場所に来るだけでここまで疲れなきゃならないんだ……。




その後も、部長の天然もあってか、話を始めるまで一時間程かかった。


本当にもう、嫌だ、この人……。

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