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相談屋の日常‐お手伝い希望の少女りんの話 その肆‐

 私りんはいつも通りの学校生活を過ごしました。朝、教室に入って友達に「おはよう」と言いました。友達も「おはよう」と返しました。それから暫く雑談をしていました。そして、チャイムが鳴って先生が来たので慌てて自席へと戻りました。急いで席に着いたのはもちろん私だけではありません。中には派手な音を立てて、転んだ男子(バカ)もいました。朝学活を終えたら一時間目の授業の支度です。教科書やノートを学校指定のバックから出し机に置きます。パラパラとノートをめくっていたら、やっていなかった宿題を発見したので急いでやりました。一教科か二教科、宿題を忘れてしまうことは残念ながら日常茶飯です。これはどうやっても直りません。家に帰ったら弟を愛でまくっているのが悪いのでしょうか。まあ、それが理由だとしても改善できるものだと思うので努力しています。それもあってか多少はよくなりました。

 着々と授業は終わって行き、お昼になりました。私の学校は給食かお弁当持参かを選択できます。いつもは給食なのですが、今日は弟が遠足ということでお弁当です。弟が好きなおかずの溢れたカラフルなお弁当。弟も今頃同じものを食べているのだと思うと、口元がにやけてしまいます。友達に注意されてしまいました。そして「ブラコンは受験期でも健在なのね。」と苦笑交じりに言われてしまいました。失敬な!

 午後の授業も終わり、いつもの商店街を歩いています。今日はクリビアさんの所に少し寄った後、ママに頼まれた卵を買って帰ります。

 古めかしい木製の扉を鈴の音と伴に開き、お店へと入りました。

「クリビアさん、こんにちは」

 カランカランという来訪者を知らせる鈴の音を聞いて、奥から出てきたクリビアさんに私は言いました。

「ああ、君か。こんにちは」

 クリビアさんはどことなく疲れの色を含ませながらそう返えしました。

「クリビアさん、どうしたんですか。今日はお客さん多かったんですか。何やら疲れているようですが…」

「さすが毎日のようにここに来ているだけあるね。少々慣れていないことというか、久しぶりにそういったことをやったもんだから、疲れてしまったようなんだよ」

「何をやったんですか?」

「それは企業秘密だよ」

 私が尋ねたそれに、クリビアさんは人差し指を口元に持っていってこう返答しました。長い前髪のために本当のクリビアさんの表情はわかりませんが、まるでウィンクでもしているような雰囲気でした。それに私は少し微笑みました。

「そういえば、今日君の弟は“遠足”らしいね」

「はい!」

 クリビアさんから私のに対し話題提示することはいつものことなので、これに私も普通に返しました。と言っても、弟の話題だったので嬉しくなってしまいましたが。

「どこにいったいんだい?」

「桜ケ丘の方にピクニックです」

「桜ケ丘か。春だと桜が綺麗だけれど、秋のこの晩秋にもなろうという今日(こんにち)になんでまた」

「近隣に住まうの方のほうで、焼き芋大会を開いてくれるそうです」

「焼き芋か…なるほど。それなら頷ける」

「桜ケ丘のお芋は美味しいですもんね」

「…そうだね。この間桜ケ丘の方の知り合いに立派なお芋をいただいて食べたけど、美味しかったよ」

「そうなんですか!私は去年家族で桜ケ丘の方に行った時に食べたっきりで、今年は食べていないですよ」

「まあ、お芋で評判とはいえ、桜ケ丘には住宅街とあと少し先に大学があるくらいだしね」

「そうですね。ここからだと少し歩きますし」

「少しね…」

「私、体力は人並みにあるのですが、桜ケ丘に行くたびに疲れてしまうんですよ」

「あの辺は坂道が多いからね。仕方ない」

「そうですね」

 そう言って、クリビアさんと笑いました。クリビアさんの表情は相変わらずみることは構いませんでしたが。

 その後も少しお話ししました。

「それでは、母から頼まれごともされているので、今日は帰ります。今度来るときは“お手伝い”させてくださいね!!」

「たびたび来てくれるのは嬉しいけど、それはどうかな…。僕の“お手伝い”をするということは、何度もいうようだけどなかなか難しいことだからね」

 私の言葉にクリビアさんはこう苦笑交じりに返しました。そして、私がお店を出る時こう言いました。

「何かあったらまたいらっしゃい。ここは“相談屋”だから」

 それに対し私が返答する間もなく、手を離した扉は閉まってしまいました。また開け直すのも気が引けたので、私はそのまま目的の卵へと足を進めました。


 卵も無事に購入し私は家へと足早に歩いていました。別段急ぐ用事(わけ)もないのですが、私の中で立てていた予定の時間より遅くなってしまっていたので歩調を速めました。

 家が見えてきました。何故だか電気が着いていません。もう六時にもなるというのにどうしたのでしょうか。不思議に思いながら私は家へと入りました。

「ただいま」

 私がいってもいるはずの家族は、返事をしてくれません。

 廊下を抜けリビングの方に行くと、人の気配がしました。電気を付けるとそこにはママがいました。

「どうしたの。電気もつけないで」

 私がこう聞いても答えがありません。ママは椅子に腰かけ俯いていました。

「………あれ、××は?」

 弟の姿が見つからなかったので、私はこう尋ねました。そうすると、死んだように動かなかったママの体が不自然に跳ねました。

「ママ?」

 私が尋ねるとママからすすり泣く声が聞こえました。そしてママは弱弱しい声で嗚咽交じりにこう話しました。


「…りっりん……っん…あっあのね…ヒクッ……××が……っ…行方不明になってしまったの………」

「え?」


 私ははじめどういうことなのかわかりませんでした。朝確かにみて話した弟が、行方不明だなんてとても信じられるような事ではありませんでした。けれど、ママの尋常ではない様子には信じる他ありませんでした。嘘ではないとわかっても、頭は理解できませんでした。さまざまな事や思いが絡み合って、混ざり合って情報処理が上手いこと出来ない状況に陥ってしまいました。表面下でパニックになっていたのかもしれません。私の顔は“無”でした。

 私とママはこれっきり黙り込んでしまいました。ママからは時々嗚咽が聞こえました。私からは聞こえませんでした。それだけが響く時間が暫く続きました。それは十分だったかもしれませんし、一時間以上だったかもしれません。しかしその静寂は、再び玄関の扉が開けられことで破られました。パパが帰ってきました。

「おかえりなさい」

 私はパパに言いました。返事はありません。暗い廊下からリビングという明るい部屋にパパがやってきた時、私は唐突に思いました。


 平凡で幸せな日々は壊れてしまったのだと。


 パパは私の前を横切り、ママに向かって歩いて行きました。そして、ママの隣に立つと椅子ごとママを蹴り倒しました。

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