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 校庭が茜色に染まる。長く伸びた影がその紅とともに現在の季節が何処にあるかを示していた。影の上をひらりと命の最後を色付いて飾る木の葉が落ちていく。眠りの季節の前の、自然の祭りは美しく、そしてどこかもの悲しい。

 その季節の舞にも増して、その少年はもの悲しげな顔をしていた。長い影を従わせて校門を出ていく生徒達を見送るその目は、羨望と悲しみを同時に乗せて、悲痛に泣いている。声は出さずとも。

 彼の影もまた長く延びている。寄り添う先もなく並び立つなにがあるわけもなく。屋上と言う場所柄、季節の舞もこの場にはない。ただ長いだけ、ただ赤いだけ。

 そこに一つの影が登場した。軽い少女の足音を彼は知っていた。覚えていた。忘れるという人類にとっての損失であり幸いを、彼は贈られては居なかったので。

「ねえ、めぐちゃん。僕は嘘つきだったんですよね」

「……」

 答えを望んでの独白ではなかった。だからだろうか、少女はただゆっくりと歩いて少年の傍らに立った。小柄な少年は己とほとんど視線の位置の変わらない少女を見なかった。

「嘘は突き通さなきゃダメって言いますね。だけど嘘は吐いちゃダメっても言うけど」

「……はい」

 少女は困ったように肯定を返した。やや傾いた首が困惑をより強く表す。少年はうんと自分も頷く。

「僕は嘘つきだったけど、嘘つきの僕を好きでいて貰うより、嘘つきじゃない僕を好きになって欲しかったんです。贅沢だったかな」

「そんなことないです」

「うん、僕もそう思ってました。だけど違ったね、みんな嘘つきじゃない僕は好きじゃないみたいだから」

 目を細めた少年は夢見るような目を校庭に向ける。そこには帰ろうとする同世代の少年少女の姿があった。嘗ては混じれたその場所が、今の少年には果てしなく遠く思える。

「ありす先輩」

 躊躇いがちな少女の声音ではなく、その呼び名に少年は少女に視線を向ける。長く呼ばれていたあだ名は今はあまり聞けない。ついこの間まではこの呼び名共に沢山の手が彼を構ってくれていたのだ。

「諦めちゃダメですよ」

「え?」

 それは彼には意外な励ましの言葉だった。弱音は本音だったがほんの少しの期待もあった。嘘つきじゃない、嘘つきでも好きです。今の自分を肯定してくれる優しい言葉、甘い言葉。けれど少女が口にしたのは鼓舞。

「嘘つきじゃない先輩を好きになって欲しいんでしょう?」

 頑張りましょうよ。

 ね? と言われて少年はほろ苦く笑った。その通りかもしれない。

 重ねた回数は多くても、吐いていた嘘は一つだけだ。

 その他には何一つ嘘なんかない。離れていった沢山の手の持ち主達に見せていた自分は、全部が全部嘘なんかじゃない。

「そうですね。僕がみんなを好きで、みんなに好きでいて欲しいのは嘘じゃないです」

「はい」

 力強く頷いた少女に、少年は頷き返した。

 君を好きなことも嘘じゃないんですよ。

 その言葉は飲み込んだ。











 私はよしよしと頷きながら屋上からの階段をとんとんと降りた。さっきまで一緒だった水無月有守先輩、通称ありすちゃんはもう少し屋上から校庭をみたいってことで置いてきた。これでこの先ありすちゃんのイベントは小イベント以外は起きなくなる。

 学園マスコット扱いのありすちゃんは実は天才。普段はテストは手を抜いてたけど、ちょっとした心境の変化(与えたのは私です、ヒロインなので)から、テストで本気出して満点とか叩き出してしまったのだ。マスコットが実は自分よりぜんぜん賢いと知ったありすちゃんの自称保護者どもはありすちゃんをどう扱っていいのかわからなくなる。そして距離を起き出す。天才だけど中身お子さまのありすちゃんは寂しい。そこを私が(ヒロインが)慰め好感度ゲットである。それが今こなしてきた屋上イベントなんだけど。ここは実は次のイベントへの分岐点だったりする。ここで「先輩は嘘つきじゃない」を選択すると好感度は大幅に上がって次のイベントに繋がる。この次のイベントというのがありすちゃんルートにINする為のイベントになる。今私がしてきた選択肢は「がんばろう」で、好感度は小アップするけど次のイベントには続かない。もう一つの選択肢「嘘つきでもいい」だと好感度が大幅に下がります。けど次のイベントは好感度回復させれば起きる。

 つまり私は今、ありすちゃんのフラグを折ってきたところである。

 巡る季節は建前上は一途プレイ推奨だ。初期の出会いや友好イベントなんかは好感度だけで発生するんだけど、一年の秋から冬にかけてのイベントは好感度が高いキャラのものが優先して起こる。迂闊に好感度上げすぎて学園祭やクリスマスイベントに本命じゃないキャラのイベントが起きたなんてことが何度もあった。季節イベントは必須のイベントじゃないんだけど、学園祭やクリスマス時点で本命じゃないキャライベントが来るようだとヤバイ。そのキャラが一番好感度高いってことだし。個別ルートに入るためのイベントは早いキャラで一年の冬だ。一番遅いキャラでも二年の春だから、今くらいの時期に油断してると本命の個別ルートに入り損ねたりする。

 シナリオの楽しみは二年からの後半だけど、システム上の難所は一年なんだよね。ここでEDが決まるから気が抜けない。かと言って好感度を稼ぐこともやめませんが何か? フラグは折ればいいんです本命以外は。今のところありすちゃん含めて3人のフラグは折りましたが好感度は高いままです。ゲームと違って自室のPCで占いサイトにアクセスすると好感度が数値で見れるとかは流石にないけど、下校が一緒だったり寄り道デート成功したりするし。誘わなくても誘いに来てくれるのは好感度の目安になる。

 目指すは逆ハーレムです、好感度を抑制して愛される立場を放棄などするわけがない。

 最近は下校の誘いとか増えてきた。デートに誘われたりもしてる。気が抜けないと思いながらもにやける顔は止められない。

 人に、誰かに、好きでいて貰えるってこんなに気持ちよかったのかと思う。しかもそれが誰から見てもいい男とか女の夢すぎる!

 とか思って含み笑いするところを誰かに見られてもアレなので鼻歌で誤魔化しながら廊下を歩く。走ってるの見つかって堅物攻略キャラに説教されるのも嫌だし。

 それでも足取りは軽い。ふんふんと歌ってたら、後ろから声をかけられた。

「ご機嫌だな」

 ぴたっと足が止まる。この腰に来る声は……!

「霜月先輩……?」

 窓の枠に浅く腰掛けたその人は足を止めた私を上から下まで、わかるほど明からさまに眺め回した。顔に血が集まるのを感じる。なんだこの品定めされてるようなエロい視線。

「やっぱりご機嫌だな。お前基本トロくせにスキップでもしそうな足取りじゃねえか」

「トロ……っ」

 言ってくれるじゃねえかこのイケメン! ってそれは罵倒語ではないな。うん。

 で、その言ってくれたイケメンはふふんと鼻を鳴らして足を組んだ。窓枠はそう低くない位置なんだけどなんだろうかこのバカみたいな脚の長さは。今はまだ座ってる状態だからマシだけど立ち上がられると視線が合わなくなる。180センチオーバーの長身細マッチョ様です。先ほど罵倒になってない罵倒をしたように華やかな顔立ちのイケメン様です。

「上から来たのか。確かさっきありすの奴が上行ってなかったか?」

「え、え……さあ?」

 誤魔化す一択! 別のオトコに会ってました慰めてましたフラグは折りました、とか言えるか!

 はいお分かりですね。これが攻略対象です。てか本命! 今のところそう悪くない好感度だと思います。

「お前なんかが俺に隠し事か。いいけどなお前が何を隠してようと」

 それより、と、本命様、霜月瑞輝先輩は組んだ足をさっさと崩して窓枠からひょいと身を躍らせる。あっという間に至近距離に詰め寄られて、私の顔は多分さっきより赤くなった。自分じゃ見れないから多分だけど。

「そ、それよりなんですか」

 詰め寄られてじりっと後ずさる。逃げる私にそのまま迫ってくれると非常に美味しいんだけどこの時点では無理だ。追っては来ない。

「それよりお前、弥生見なかったか」

「見てません」

「隠しだてすると為になんねーぞ。まさかありすにかまって上にいるとかじゃねえだろうな」

「いや違うし」

 思わず突っ込んだらそれが言質になった。霜月先輩はにやっと笑う。

「お前がありすを構ってたわけか」

 ふうんとまた鼻を鳴らす霜月先輩を私は睨みつけた。

 本命様ですめろめろです大好きです。だけど今の本命様は嫌いだ。この人は個別ルートに入らない限りヒロインに恋してはくれないから。











 この人の個別ルートは、この人が好きな人に振られるところから始まるんだから。

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