第五幕 Bパート
右の道を曲ってみる。
随分と細い道だった。
ここにも店が連なっているのかと思いきや、並ぶは店の裏口の扉かゴミ箱、またはダンボール。
ふと、その中身が気になったが、仔猫でも出てきたら面倒なので、見ないことにする。
ふむ、これは“路地”というやつだな、完全に。驚くほどに何もない。
それでも、せっかくここまで来たのだ。引き返すのも馬鹿らしいので、ひたすら先に進んでみることにした。
路地を抜ける――ああ、何もない。
道が広くなった――ふぅ、何もない。
視界が開けてくる――ちっ、何もない。
ついに建物がなくなった――くそ、やっぱり何もない。
「何だか、どんどん違うところへ向かっているような……」
行けども行けども、自動販売機は見つからない――どころか、商店街の喧騒もあっという間になくなり、人気のない、街路樹の立ち並ぶ無駄に広い道が続くばかりになってしまった。
「煙草どころか、飲み物の自販機もないなんて、どんな田舎なんだよ、ここは……」
冷たい空気に溶ける白い息を見送って、少しだけ視線を上げてみる。
都会には有り得ない、開けた頭上。
ここら一帯は開拓中なのか、はたまた単に空地なのか、視界を遮るビルはおろか、建物自体ほとんどなく、遠くまでも見渡せる。
こんなところに道を作る理由があったのかと、疑問が湧くほどだ。
が、その疑問は次第に大きくなる建物によって、解消される。
「病院、か」
白い壁に、ワンポイントの飾りのように赤い十字が引かれている。
ぽつんと寂しげに一人取り残された、広場のゆきだるまのようだ。それが寂しい風景に拍車をかけている。
そりゃまぁ、排気ガスが入り込んでくるような病室よりはずっといいだろうが……
「あ、そうだ。病院の中なら、自販機くらいあるんじゃないか?」
さすがに煙草はないだろうが、コーヒーくらいは買えるだろう。
ふと思い立った名案は、しかし足を病院に向けた途端に翳りを見せる。
「コーヒー買うためだけに、病院って入っていいもんか……?」
それに、俺は病院というところが大嫌いだった。
あの薬臭い匂い。雑多な人間。想像するだけで嫌気が刺す。
「やめた」
煙草もコーヒーも諦めて、結局戻ることにする。
持ち上げかけた右足をそのままに、くるりと回れ右。来た道を辿っていく。
ほぼ一本道だったから、迷うことはないだろう。
ほぼ一本道だったから、どのくらい歩いていたか、時間の感覚が失われてしまっていることが問題だが。
ぴゅう、と鳴きながら、北風が正面から吹きつけてくる。周囲に建物がないせいか、風は強い。
襟元を両手で押さえて、俺はもと来た道を戻っていった。
病室の窓から、少女が虚ろな瞳を向けていた。
【第六幕へ】
いかがだったでしょうか?
このように時々、分岐選択をしてお話を進めていくようにしていきます。
基本的には一本道なので、あまり気にせず楽しんでいただければ、と思います。