第四幕
このお話を読む前に、補足説明をご覧下さい。
入り口に掲げられたアーチ――それを彩るは、
『ようこそ、中央通り商店街へ』
という、なんとも“つまらない”、“ひねりない、”、“珍しくない”、三拍子揃った名文句。
こういう場合、あたり障りのないものを選ぶのが、日本人という人種なんだろう。
脇に描かれているのは、コアラだろうか。にしては、少しばかり腕が長い。
耳の部分は欠けてしまったのか、その姿はナマケモノみたいにも見える。
商店街のアーチにコアラというのも脈絡がわからないが、ナマケモノではもっとイメージが悪かろうに。
早々に修繕することをお勧めしたい。
我ながら、いちいちケチをつけつつ、アーチを潜る。
商店街は、小さな町に反して以外に大きかった。造りもなかなかに凝っている。
中世のガス灯か何かを象っているのか、小洒落た、色合い暖かな街灯が等間隔に並び立つ。
広いレンガ敷きの道路の両脇には、精肉店、鮮魚店、八百屋、惣菜屋、スーパー、ドラッグストア、ケーキ屋、和菓子屋、本屋、CD屋、喫茶店にファミレスにファーストフードと、一通りの店が軒を連ねている。
ここに来れば揃わないのは“大人のおもちゃ”くらいのものだろう。それにしたって、路地の奥の方にでも行けば、見つけられそうな気がする。
「まずは、ここでお買い物〜」
と、楽しげにスーパーを指差す蒼香。
『まずは』という台詞がとても気になったが、兎にも角にも俺は腕を休めたかった。
「俺はここで待ってるから、適当に済ませてきてくれ」
スーパーの駐輪場にバイクを止めて、煙草に火を点ける。最後の一本、とっておきだ。
「え〜? 一緒に行こうよ」
蒼香は大いに不満そうに頬を膨らませる。
だが、俺はそれに取り合わない。
「俺が行っても仕方ないだろ。それに、楽しみは取っておきたいしな。材料を見たら、今日のメニューがわかっちまう」
「むぅ」
膨らんだ頬に口も尖らせて抗議してくるが、適当に腕を振って促すと――相変わらず不満そうではあったが――、蒼香はスーパーの奥に入っていった。
「さて、」
それを見届けると、俺は腕の凝りを解すため、ぐっと大きく伸びをした。
吐き出した煙が、風に乗って飛んでいく。
冷たさを増した北風が、クソ重いバイクを押してきた今の火照った体には心地良かった――と思ったのも束の間、すぐに体が冷える。動いて体を温めたくなった。
「煙草でも買いに行くか……」
そこら辺を探せば、自販機くらいあるだろう。温かいコーヒーも欲しいな。
眼前に真っ直ぐ伸びる道を眺めてみる。自販機らしいものは見受けられない。
「仕方ないな」
俺は適当にあたりを付けて、路地裏の通りへと入ることにした。
問題は、どっちへ行くかだな……
【選択】
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