第六幕
途中で見つけた小さなタバコ屋で煙草を買い足し、もと来た道を辿ってスーパーの前へ戻る。
「急ごうって言ったの、お兄ちゃんなのに……」
やっとのことで戻ってくると、そこには不満そうな顔をした蒼香が、いっぱいの袋を両手にぶら下げて立っていた。
そういえば、店に入る時も不満そうだったな。
「悪かった。自販機を探してたら、道に迷っちまったんだよ」
「……」
適当に誤魔化そうとしたが、それが返ってまずかったのだろう。
蒼香は相当いじけてしまったらしく、帰る道すがら、何とかご機嫌を取ろうとして、またかなりの時間を要することになった。
その間、また亀の歩みになっていたことは、言うまでもない。
駅前の賑やかさからも、商店街の活気からも遠く離れた、閑静な住宅街。
アスファルトの道路脇に立ち並ぶは、アスファルトの塀と無機質な電信柱。
空を覆うは、黒や鼠色、茶色といった暗色の屋根と風情の欠片もない電線。
どこを見ても人工物だらけの味気ない世界ではあるが、それでも時折、塀の向こうに見える庭の緑と木造の門のおかげで、辛うじてここがまだ生物の存在し得るところであることがわかる。
その道路の真ん中を、俺と蒼香は二人して歩いていた。
まだ出逢って幾程も経ってはいないというのに、それがさも当然であるかのように、二人並んで。
しかもムダに距離が近い。
「もう少しで着くからね」
蒼香はそんなことを全く気にもしない様子で、もう四回目になる言葉を口にする。
「さっきから『もう少し』と言ってるが…… いつになったらお前の家に着くんだ?」
「うん、もう少しだよ」
はい、五回目。あと何回この台詞を聞くことになるのだろう。
正直、もう耳が痛い。頭も痛い。ついでに言うと腕も痛い。
スーパーで待たせてしまった、そのおわび(ご機嫌取り)として、俺は全五つの買い物袋のうち、その大半の四つの荷物を持つことになった。
両手に荷物を二つぶら下げて、バイクの両手にも二つ持ってもらっている。キャリアには、バイオリンが入っているので、こうするしかない。
どのみち、その全重量は俺の腕にかかるわけだから、そりゃ疲労もするというものだ。
「……いつになったら着くんだ?」
俺はそんなことをできるだけ気にしないように、もう五回目になる言葉を口にする。
「もう少し」
六回目の言葉は、やっぱり信憑性に欠けていた。
いかがでしたでしょうか?
ノンビリですいませんが、気長にお付き合いくださると嬉しいです。