‐1‐ とある朝
立冬とはいえどだからといって気温が一変するわけでもなく、故に暦や祝日は現代社会に順応しているわけではないということを考えながら、だがやはり祝日は多く、休みは多くがよろしいという何の変哲もない解答に僕が辿り着いた頃の話である。
七ヶ月前には期待を膨らませながら歩いていた登校路だが、今となってはただの道以上でも以下でもない。
僕はその道を歩きながら、今日行われる数学の小テストのことを一生懸命頭から追い出そうとしていた。
すると後ろから快活な声とともに、肩をポンと叩かれた。
「よっ!」
振り向くとそこに居たのは、僕の親友、御夜洸だった。
「相変わらず抜けた顔してんなぁ~。そのうち電柱にでも正面衝突して頭蓋骨陥没するぞ?」
「ほっとけ。…てかさりげなく酷いことを!どれだけスピード出して走ってるんだ僕は!?」
「…時速200kmぐらい?」
「周囲の歩行者が轢かれて死ぬよ!?」
的確なツッコミを僕が入れると、御夜はククク、と笑った。
「相変わらずだなぁ、亮は。」
「当たり前だ。昨日会ったばっかりだろう!」
それもそうだ。と更に笑う御夜。笑い上戸である。
中一の会話なんてこんなものだ。道を覆いつくす落ち葉を踏みつけながら、この落ち葉は誰かが掃除しているのだろうかなどと考える自分はなんだか変だ。
一直線、等間隔に並ぶ桜の並木道は我が校のポイントをいくつか上げている。だが秋にはどうも落ち葉が多く、汚いというか雑然としている。
やっと校門が見えてきた。そう思ったところで、ふと御夜の表情が変わる。
僕らの横を通り過ぎた黒塗りの外車。乗っている人の顔をしっかり見ることは出来なかったが、辛うじて壮年の男性だということは分かった。
そしてその車は校門に入っていく。
「…あれは誰だ?」
僕は御夜に問うた。
立ち止まり、さっきまで訝しげな表情を浮かべていた御夜は、一転して得心した表情をした。
「あぁ…あれが……」
「あれは誰なんだよ?」
再び問う。勝手に一人で納得するな。
「今思い出したんだよ。あれは新しい学校長だ。」
(校長?こんな時期に?)
このときはその程度にしか思わなかった。