輝いてるんだ
病院特有の嫌な薬の臭いがする
そういえば、昔この臭いを幸紀は「好き」と言っていたっけ
「なんかわからないけど、好き」って。愛くるしい笑顔を浮かべて
私の息子は、今「集中治療室」という堅苦しい箱に詰められている
私が幸紀を抱いたとき、まだ暖かかった。
さんざん幼稚園周辺を歩き回って、疲れてベンチに座ろうとして後ろの貯水池に落ちたのだろうと
おまわりさんが言っていた。
もう、涙なんて出る余裕は無かった。
私の隣には、昔愛した人。幸哉が手を握ってくれている
「大丈夫、大丈夫・・・」とまるで呪文のようにつぶやいている
やっぱり、単純。でもそこに惚れたんだっけ
向かいには山崎先生が真っ青な顔をして床に座り込んでいた。
彼女は、この事故の2番目の被害者だと思う。とっても可哀相
箱の蓋が開いた。中から数人のおとなたちが出てくる
「胃の中の水は全て抜き取りました。後は回復を待ちましょう」
そう、おいしゃさまは言った。
やっぱり、病院特有の臭いがする
その臭いが詰まった病室で、幸紀は眠っていた
大丈夫、ちゃんと息はしている。人間らしく生きている。
それだけで、私は幸せだった。
私の生命全てを差し出してもいいくらい、幸せだった。
誰かが入ってくる気配がした。
「まだ、起きないか?」ああ、幸紀のぱぱだった。
「私は、生きているだけで幸せよ?」
ありのままを幸哉に話した
「ああ、そうだな。」また、幸哉は優しく微笑んでくれた。
「私、バカだったのね。あなたみたいな人を・・・その、・・・捨ててしまって」
「ふふ、君はバカじゃない。あの時の判断は正しかったよ」
「でも、今の私にとっては、その判断は誤りだったわ」
「そう思ってくれるなら、嬉しいよ」
「ねえ、ちょっと外に出てみない?」
しばらく幸紀を見つめたあと、幸哉が突然そんなことを言い出した
「そと・・?」
「屋上。いいから、いいから」
私は強引に病院の屋上に連れ出された
病院の屋上からは、とても綺麗な夜景が見えた
でも、その夜景もかすれてしまうくらい、もっと輝いているものが頭上にあった
「そっか・・・今日は・・・『中秋の名月』・・・だったのね」
頭上に見えたのは、満天の星と、大きな満月。
自分で言っておきながら、この日の事をすっかり忘れていた
「きれいね・・・」
私はそうつぶやいた
「きっと、すぐに目を覚ますよ。幸紀は」
幸哉はそう優しくささやいた
「どうして?」
「だって、流れ星様にお願いしたから」
単純ね、やっぱり
そして、私はそこに惚れたんだった
次で終わると・・・思います(^_^;)
もうどんどん駄作に近づいててすみません・・・