英雄の凱旋
ふぅ。
巨大だった「紫の厄災」の死骸。 俺はそれを、骨の髄まで徹底的に食べ尽くした。
よし。 腹も満たされたし、そろそろ集落へ戻るか。
【変身:バインドスネーク】
シュルルルル……。
俺の体から、空気が抜けるように質量が溢れ出し、霧散していく。 紫の巨躯は縮み、元の細長い蛇の姿へと戻った。
さぁ、あの巨体は食べ尽くしたから、証拠隠滅も完了だ。 俺は意気揚々と、みんなが待つ場所へ戻った。
だが。
そこで俺を待っていたのは、歓声ではなかった。
俺を恐怖の目で見つめる、蛇たちの凍り付いた視線だった。
それは、「人外」ならぬ「蛇外」の、理解不能な生き物を見る目だった。 さっきまで自分たちを殺そうとしていた化け物に、仲間だと思っていた俺が変身したのだ。無理もない。
はぁ。 心の中で、重いため息をつく。
やはり、どの世界でも、群れからはみ出した圧倒的な強者は、忌み嫌われる存在なのか。
もし、俺が変身したのが、ブラックタイガーだけなら、「シェイプシフターってすごいね」と、英雄として祭られたはずだ。
俺は、全てを悟った。 何も言わず、このまま集落の先にある森へ進んでいくことを決意した。
その時だった。
「……あの」
震える声が呼び止めた。 長だ。 彼は、恐怖で動かない体を引きずるようにして、俺の前に進み出てきた。
「あなたは……あの伝説の、『シェイプシフター』なのでしょうか」
「あぁ。そうかもしれないな」
俺は短く答えた。そして、周囲を見渡す。
「ただ、この様子だと……俺は、もうこの集落には入れないようだな。皮肉なものだよ。蛇たちを助けるために力を尽くしたのに、その力のせいで受け入れられないなんて」
俺は、遠巻きにこちらを見て身構えている他の蛇たちを、チラッと見た。
それだけで。 「ヒッ」という悲鳴なき悲鳴を上げて、彼らは目を逸らし、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
これが現実だ。
「……はい。残念ながら、あなたは、もうこの集落にはいられません」
長が、絞り出すように告げた。 その声音は、とても震えていた。 長の膝、いや、尻尾は、恐怖でガクガクと「笑って」いた。
本能が俺を拒絶しているのだ。
やはり、俺はここにいられないか。 やっと見つけた故郷だったのにな。
悲しいな。
俺が背を向けようとした、その時。
「ただ、私は!!」
長が声を張り上げた。
「私は、命を助けてもらった者として……この集落の長として、あなたにお礼を言います。……ありがとうございました!!」
長は、深々と頭を下げた。
その声音は、やはり恐怖で震えていた。 ただ、顔を上げたその蛇の表情は、恐怖を超えて、少し笑っているように見えたのだった。
「……あばよ」
俺は振り返らずに、片手を、いや、尻尾を、上げた。
そうして俺は、三ヶ月間ずっと過ごし、初めて「居場所」だと感じた集落を、一人去っていくのだった。
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