市場
ということで、俺は「バインドスネーク」の姿を保ったまま、狩りに出てみた。
最初は紐のような体の操作に戸惑ったが、元来の適応力のおかげか、一日で結構慣れた。 結果、ブラックバッファローを三匹も狩ることができた。
そして、何より驚くべきはその「運搬」だ。 ダンプカー並みの巨体であるバッファローを三匹、尻尾でまとめて持ち上げているのに、体感重量は人間時代に「10キロの米袋」を持った程度にしか感じない。
えー。 完全に、ニュートン先生の法則が否定された気分だ。 筋肉の密度どうなってんの?
そんなことを考えながら、蛇の集落(沼)に帰還した時だった。
出迎えた長が、俺の荷物を見て目を丸くした。
「えっ……。さ、三匹も狩ってきたんですか? 新入りの若者は、ブラックバッファローを一匹狩れるかどうかなのに……」
……やばい。 張り切りすぎた。 「ただの新入り」にしては強すぎて、完全に怪しまれている。
俺は脳内で言い訳を組み立て、悲痛な声色を作った。
「……前、あの『紫の災厄』が来たと言ったでしょう? 実は、私の親はとても腕が立つ蛇だったんです。 あの時、私の兄弟と親は、未熟な私を生き残らせるために盾になって……うっ……」
嘘泣きを混ぜる。 我ながら完璧な演技だ。
「グスッ」
!?
ん? 今、俺じゃないところから「グスッ」って聞こえなかったか?
「グスッ……」
顔を上げると、長がボロボロと大粒の涙を流していた。
「うおぉぉぉん!! グスッ、悲しい……グスッ、なんて悲劇だ……グスッ。 そうか、偉大なご両親に狩りを教わっていたんですね……グスッ」
え、チョロ。 チョロすぎて、逆に心配になるレベルだ。
「グスッ。グスッ」
長は鼻水を垂らしながら、俺に巻き付いてくる勢いで泣いている。
……なんか、すごい悲しい空気にされてしまった。 こっちが悪いことしたみたいじゃん。 ……いや、まあ、こっちが百パーセント騙しているんだけどさぁ!!
長は涙で潤んだ瞳(蛇に涙腺があるのかは謎だが)で、俺を見つめて言った。
「グスッ。あなたは……グスッ。この集落を、グスッ。一生の拠点にして活動してください……グスッ」
えぇー。
ちょっと重い。 話の内容も重いし、性格も重い。 初対面の嘘つきに一生を捧げさせようとするな。
「は、はい……ありがとうございます……」
俺は一歩下がって、いや、一回尻尾を後ろに引きずって、少し引いたのだった。
まあ、とりあえず衣食住には困らなさそうだ。 一週間ぐらいは、ここで世話になるかぁ。
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