日常
ドガァッ!!
よし。 ブラックタイガーの強靭な前足が、獲物の頭蓋を粉砕した。 この体の扱いにも、だいぶ慣れてきたな。
俺は倒れた獲物に食らいつく。
ガブガブ。
【アンロック:ホワイトホース】
……え?
今の、馬だったの?
いや、まあ逃げ足は少し早いなとは思ったけどさ。 どう見ても、鼻が潰れてて尻尾が丸まった、白色の「豚」だったんだが?
この世界のシステム鑑定、頭おかしいのか? それとも、この世界ではこれが「白馬」として通っているのか?
「ブモッ(解せぬ)」
思わず豚の鳴き声が出そうになったが、まあいい。 この異世界に文句を言っても仕方がない。
なんだかんだで、俺はこの生活にも慣れてきてしまった。
初めの頃は、生肉や鮮血を啜る行為を「グロテスクだ」と拒絶する人間的な感性が残っていた。 だが、食べないと変身ストックが増えないし、何より腹が減る。 今はもう、躊躇なく食べられるようになった。
幸いなことに、味覚や触感に関しても、痛覚と同じく「雲の上から感じている」ような乖離感がある。 血の鉄臭さも、生肉の生温かさも、遠くの出来事のように感じるおかげで、吐き気を催すことはない。これは、この体の数少ない利点かもしれない。
探索を続ける。 結構な距離を移動しているはずだが、人の集落らしいものは一切見当たらない。
この森の生態系も分かってきた。 主な住人は、力自慢の「ブラックバッファロー」と、捕食者の「ブラックタイガー」。 そして、木陰や草むらに小物の「グリーンラット」がちょろちょろしている感じだ。
さっきの「ホワイトホース(見た目は豚)」は、かなり珍しいレアモンスターだったようだ。
そして、体感で一週間はこの森でサバイバルしているのだが、いまだに俺の「本当の名前」は分からない。
というか、俺の同族がいるのかさえ分からない。 今のところ、自分と同じ「不定形の肉塊」には遭遇していない。
環境としては、魔物が跋扈している以外は、植生などは地球の日本に近い気がする。 まだ、人間には出会っていないが。
モグモグ。 移動しながら、さっきの豚(馬)の残りを平らげる。
あ、そうだ。重要な発見がもう一つある。
さっきの戦闘で気付いたのだが、**「相手を完食しなくても、一噛みして肉を体内に取り込めば、その時点でアンロックされる」**ようだ。
つまり、戦闘中に敵の腕などを食いちぎれば、その瞬間に「相手と同じ姿」や「相手の弱点を突ける姿」に変身できるということだ。 これは、かなり強力な武器になる。
そして……。
俺の中で、他の生き物を殺すことに対する「恐怖」や「罪悪感」も、日に日に薄れてきている。
それが、この体に馴染んだ証拠なのか、それとも人間としての心が消えかけているのか。 今の俺には、それすらも「遠くの出来事」のようにしか感じられなかった。
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