探索
あれから、一ヶ月が経った。
結局、俺はあのヒラメ王に仕えることになった。
「能力使用の合法化」によって、湖のあちこちで能力を使った喧嘩が多発するようになった。 だが、王は「能力の使用は自由だが、他魚を傷つけた場合は厳罰に処す」という新法を即座に制定。 これにより、ガス抜きと治安維持を両立させたとして、ヒラメ王の評価はうなぎ登り(ヒラメだけど)になった。
……まさか、あの感情任せの法律改変の後に、そこまで考えていたとは。 あの王、ただの情緒不安定なヒラメではなかったらしい。
そして、俺自身も能力が日に日に強化され、兵士との模擬戦では負けなしの強さを誇るようになった。 今や俺は、王に忠誠を誓う家臣の一人として、確固たる地位を築いていた。
王は顔を合わせるたびに、
「凄まじいなッ!! 上流から飛ばされた不遇な身なのにッ、それに屈せず努力をしてえええええええ!!(以下、号泣)」
と絶賛してくるし、他の家臣からの信頼も厚い。
ちなみに、驚いたことに魚帝国の魚たちは、決して同種を共食いしないらしい。 主食はプランクトンやワカメ。 すごい仲間想いだな、と感心すると同時に、捕食者である俺は少し引いた。
この国に慣れてきた頃。俺は、今後の身の振り方を考えていた。
(うーん。居心地はいいけど、このままここに骨を埋めるのもなぁ……)
だが、もし俺が「旅に出る」なんて言い出したら、王や他の魚たちが「お前は立派になってええええええ!!(号泣)」と引き留めてくる未来が鮮明に見える。 あの「重すぎ」の大合唱は、正直ちょっと勘弁願いたい。
それに、ここの魚たちの生態は、日本の常識とまるで違う。 共食いタブーの文化に加え、高度な知能と「言語」を持っている。 あんな小さな魚類の頭の中に、言語野が存在するのだろうか?
蛇の時もそうだったが、やはりこの世界は、地球の医学や生物学を根本から否定しているらしい。 俺はワカメサラダ(配給)を齧りながら、改めて異世界の洗礼を受けた気分だった。
*
ある日、日課のワカメ採取に出かけた時のこと。 湖の底に近い岩壁に、不自然な「穴」が空いているのを見つけた。
(なんだろう、あの穴は……)
水流が吸い込まれているわけでも、吐き出されているわけでもない。 俺は好奇心に駆られ、イエローサーモンの姿でその穴に入ってみた。
暗い横穴を少し進むと、急に浮力が消えた。
……うん? 水面だ。
顔を出すと、そこには「空気」があった。 どうやら、湖の底と繋がっている「鍾乳洞」のような場所に出たらしい。
……久しぶりに、エラ呼吸じゃなく肺呼吸をしてみるか。 地上(洞窟)の空気は、少し湿っぽくてカビ臭かったが、どこか懐かしかった。
俺は岸に上がると、久しぶりの変身を行った。
【変身:ポイズンスパイダー】
ボシュッ。
全く明かりがないため、熱感知ができる蛇か蜘蛛が良いと判断した。 狭い洞窟なら、壁も歩ける蜘蛛の方が有利だろう。
カサカサカサ……。 八本の足で、岩肌を這っていく。
しばらく進むと、暗闇の奥に熱源反応があった。 同族――「蜘蛛」だ。
……蛇の時のように、喋れるかもしれない。 俺は友好的に話しかけてみた。
「こんにちは。あの、ここってどこで――ッ!?」
「……」
返答はなかった。 代わりに、殺意の塊が飛んできた。 問答無用で襲いかかってきやがった。
くっ。 俺は蜘蛛の八本の足を巧みに使い、毒牙の一撃をギリギリで回避する。
(あぶねえ……!)
交渉決裂。 俺は即座に臨戦態勢に入った。
避けて、反撃。避けて、反撃。 狭い洞窟内で、蜘蛛同士の高速戦闘が繰り広げられる。
俺はあえて、単調な動きを繰り返した。 右に避けて、噛みつくフリ。左に避けて、噛みつくフリ。
そして、ある瞬間。 俺は石に足を取られたフリをして、大きく体勢を崩した。 わざとらしく、「つまずいた」のだ。
敵の蜘蛛は、それを好機と見たらしい。 動きを止め、一直線に飛びかかってきた。
(……ふっ。かかったな)
お前はいつから、蜘蛛が「噛みつき」しかできないと錯覚していた?
俺がさっきから単調な動きをしていたのは、足元に「罠」を張るためだ。
バシュッ!!
飛びかかってきた敵の体が、空中で静止した。 俺が事前に張り巡らせておいた、透明な粘着糸に絡め取られたのだ。
残念だったな。 知能戦なら、元人間の俺に分がある。
フハハハハ。 俺は動けない敵に近づき、とどめの毒牙を突き立てようとした。
その時。
「ま、待ってくれ!!」
ん?
今、喋った?
ここから、俺の物語は始まる。
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