第7話 書いた者の罪
第七話です
被告は、一人だった。
見慣れた顔だ。
法廷に立つのではなく、
横に座っていた男。
記録補助官。
私の隣で、同じ板を使っていた。
「罪状を読み上げる」
司祭が言う。
「記録の改ざん。
不適切な要約。
秩序攪乱の補助」
男は、否定しなかった。
「事実です」
即答だった。
傍聴席がざわつく。
内側の人間は、
いつも空気を乱す。
「弁明は」
「ない」
短い。
私は、筆を置いた。
この沈黙は、記録されない。
だが――重い。
「確認する」
判事が言う。
「お前は、
判決文に不要な文言を残した」
「はい」
「なぜだ」
男は、私を見なかった。
「削れなかったからです」
司祭が、鼻で笑う。
「感情だな」
「いいえ」
男は、首を振った。
「事実です」
私は、板を立てた。
判事が、短く頷く。
「確認します」
私は、男に向いた。
「あなたの仕事は何ですか」
「……起きたことを書くことです」
「誰のために」
「……裁判所のために」
私は、板に二行書いた。
起きたこと
残されたこと
「違います」
男が、初めて私を見た。
「私は、
残ったことを書いた」
法廷が、静まる。
「削られた言葉も、
沈黙も、
そこにあった」
司祭が声を荒げる。
「記録は要約だ!
選別が仕事だ!」
男は、頷いた。
「はい。
だから私は――」
一拍。
「選別しなかった」
空気が凍った。
「確認します」
私は、司祭を見る。
「記録の所有者は、誰ですか」
「裁判所だ」
「では」
私は続ける。
「記録に残らなかった言葉は、
誰のものですか」
沈黙。
私は、板に一文を書いた。
記録は、
残った言葉の集合ではない
「判事」
私は言った。
「この男は、
規則を破りました」
「なら有罪だ」
「はい」
私は頷いた。
「ただし」
一拍。
「記録を、
嘘にしなかった罪です」
司祭が叫ぶ。
「異端だ!
記録は道具だ!」
私は、静かに返す。
「道具は、
使い方を問われます」
木槌が鳴る。
「有罪」
短い。
「記録に残すな」
「残します」
私は言った。
七度目だった。
男は、連れて行かれた。
すれ違うとき、
小さく言った。
「……次は、あなたですね」
私は答えなかった。
答えは、分かっていた。
法廷が空になる。
私は板を拭いた。
文字が消える。
だが、
一文だけ、残った気がした。
記録は、
誰のものか
外で鐘が鳴る。
今日も王都は静かだ。
だが――
沈黙を書く者が、
消され始めた。
誤字脱字はお許しください。




