第6話 見ていた者の罪
第六話
被告は、三人だった。
いずれも名は知られていない。
職も違う。
共通点は一つだけ――
傍聴席に、いた。
「罪状を読み上げる」
司祭が言う。
「異端思想の黙認。
秩序破壊への加担。
不作為による扇動」
三人は顔を見合わせた。
誰も、前に出ない。
「弁明は」
沈黙。
私は筆を置いた。
この沈黙は、記録されない。
だが、意味はある。
「……何もしていない」
一人が、耐えきれずに言った。
「見ていただけだ」
司祭は頷いた。
「それが罪だ」
私は、声を出していた。
判事が、短く頷く。
私は板を立てる。
「確認します」
三人を見る。
「あなたたちは、
これまでの裁判を見ていましたか」
「……はい」
「理解しましたか」
「……だいたいは」
私は板に書く。
知っていた
「では、質問を変えます」
「止める力は、ありましたか」
三人は首を振る。
「なかった」
「では、
声を上げる力は」
沈黙。
私は、板にもう一語を書く。
言えた
「言えた、のですね」
一人が、絞り出すように言った。
「……言えば、捕まる」
「確認します」
私は淡々と続ける。
「捕まる可能性と、
捕まった事実は、同じですか」
沈黙。
私は、板に線を引いた。
可能性 ≠ 事実
「では」
私は司祭を見る。
「この罪の目的は何ですか」
「秩序の維持だ」
「何を維持しますか」
「沈黙だ」
即答だった。
法廷が、凍る。
私は、うなずいた。
「合理的です」
司祭が、眉をひそめる。
「沈黙が保たれれば、
秩序は壊れません」
私は、板に最後の一文を書いた。
沈黙は、選択である
「確認します」
私は、傍聴席も含めて言った。
「彼らは、
何もしなかったのではありません」
一拍。
「何もしないことを、選びました」
「ならば有罪だ」
司祭が言う。
「選択した以上、
責任を負うべきだ」
私は首を振った。
「いいえ」
一拍。
「責任を問うなら、
選択肢を与えるべきです」
法廷が、ざわつく。
「選択肢を、
あなた方は与えましたか」
沈黙。
「言えば捕まる。
黙れば生きられる」
私は、板を叩いた。
「それは選択ではありません」
一拍。
「脅迫です」
木槌が鳴る。
「有罪」
判決は短い。
「記録に残すな」
「残します」
私は言った。
六度目だった。
三人は連れて行かれた。
誰も抵抗しない。
だが、足取りは重い。
法廷が空になる。
私は板を拭いた。
文字は消えた。
だが、
消えない一文があった。
沈黙は、選択である。
だが、脅迫下の沈黙は、
選択ではない
外で鐘が鳴る。
今日も王都は静かだ。
だが――
見ているだけの者が、
裁かれ始めた。
誤字脱字はお許しください。




