第5話 神の罰か、因果か
第五話です
被告は、医師だった。
王都で「医師」と呼ばれる者は少ない。
ほとんどは祈祷師か、薬師だ。
彼はそのどちらでもない。
ただ、病人の腹を開き、
中を見た男だった。
「罪状を読み上げる」
司祭の声が、低く響く。
「神罰の否定。
教義の軽視。
不敬」
医師は、否定しなかった。
「事実だ」
即答だった。
傍聴席がざわつく。
否定しない被告は、
いつも場を乱す。
「理由を述べよ」
「病は、原因と結果です」
短い言葉だった。
司祭が、鼻で笑う。
「思い上がりだ。
病は神の意志によって与えられる」
「確認します」
私は声を出していた。
判事が、黙って頷く。
私は板を立てた。
「この街で流行した熱病について」
医師が続ける。
「発症者は、川の下流に集中していました」
「何が言いたい」
「上流に、家畜の解体場があります」
傍聴席が、静まる。
「神罰だと?」
司祭が言う。
「では、なぜ祈った者も死に、
祈らなかった者が生き残るのですか」
沈黙。
「なぜ、同じ罪を犯したはずの者で、
症状に差が出るのですか」
沈黙。
私は、板に書いた。
原因 → 結果
「医師」
私は言う。
「あなたは、どう対処しましたか」
「水を煮沸させました」
「結果は」
「死者が減りました」
空気が、凍る。
「確認します」
私は司祭を見る。
「煮沸は、祈りですか」
「……違う」
「教義ですか」
「……違う」
「では」
一拍。
「なぜ、効果があったのですか」
司祭は、答えなかった。
私は、板にもう一行書く。
再現できる現象
「神罰は、再現できますか」
沈黙。
「条件を揃えれば、
同じ結果が出ますか」
沈黙。
私は、結論を書いた。
説明でき、再現できるものを、
因果と呼ぶ
「判事」
私は板を下ろした。
「この医師は、
神を否定していません」
「何を否定したと言う」
「原因を、神に押し付ける思考です」
司祭が叫ぶ。
「異端だ!
神の権威を貶める気か!」
私は首を振る。
「貶めているのは――」
一拍。
「説明を放棄することです」
木槌が鳴る。
「有罪」
判決は変わらない。
「記録に残すな」
「残します」
私は言った。
五度目だった。
医師は、連れて行かれた。
歩きながら、
こちらにだけ、言った。
「……次は、もっと救えます」
法廷が空になる。
私は板を拭いた。
文字は消えた。
だが、
頭の中にだけ、残った。
説明できないものを、
神と呼ぶのは、
思考停止だ。
外で鐘が鳴る。
今日も王都は静かだ。
だが――
神の居場所が、
少しだけ狭くなった。
誤字脱字はお許しください。




