第4話 なぜ、その罰なのか
第四話です
被告は、男だった。
年は四十を少し過ぎたあたり。
背は高く、肩は広い。
兵役を終えた体だ。
「罪状を読み上げる」
司祭が言う。
「配給物資の横流し。
規定量違反。
秩序破壊」
男は、黙って立っている。
「弁明は」
「ない」
即答だった。
傍聴席が、ざわつく。
否定しない被告は、都合が悪い。
「では確認する」
判事が言う。
「お前は、配給を横流しした。
事実だな」
「事実だ」
「理由は」
男は一瞬だけ、私を見た。
それから、言った。
「余ったからだ」
空気が、止まった。
「余った?」
「腹を満たす量は、人で違う。
私には、多かった」
司祭が声を荒げる。
「配給は等しく配られる!
理由など関係ない!」
「確認します」
私は、声を出していた。
判事がこちらを見る。
「……許可する」
私は板を立てた。
「あなたは、横流しした配給を、
どうしましたか」
「近所の家に渡した」
「対価は」
「ない」
「誰に」
「子どものいる家だ」
司祭が鼻で笑う。
「感情論だ」
「感情ではありません」
私は言った。
「行為の結果です」
板に、三つ書く。
目的
手段
結果
「被告」
私は男に向いた。
「あなたの目的は」
「腹を満たすことだ」
「手段は」
「余った分を分けた」
「結果は」
「全員、生きている」
私は、判事を見る。
「では、罰を確認します」
判事が答える。
「鞭打ち三十。
次犯は追放」
「理由は」
「規則違反だからだ」
私は頷いた。
「合理的です」
傍聴席が、ざわめく。
「ただし」
一拍。
「目的に対して、です」
私は、板にもう一行書いた。
罰の目的は、何か
「司祭」
「……何だ」
「この罰の目的を、定義してください」
司祭は即答する。
「秩序の維持だ」
「秩序とは」
「規則を守らせることだ」
「規則は、何のためにありますか」
沈黙。
「……社会のためだ」
「社会とは」
「人々だ」
私は、板を叩いた。
「では」
言葉を置く。
「人々が生きている結果に対し、
なぜ、痛みを与えるのですか」
法廷が、凍りついた。
誰もが、分かってしまったからだ。
答えがないことを。
「確認します」
私は、淡々と続ける。
「この罰は、
再発を防ぎますか」
「……恐怖は抑止になる」
「では、飢えを減らしますか」
沈黙。
「配給の無駄を減らしますか」
沈黙。
「命を守りますか」
沈黙。
私は、最後の一文を書いた。
目的に寄与しない罰は、
合理的ではない
「判事」
私は板を下ろした。
「この罰は、
秩序のためではありません」
「では、何のためだと言う」
私は答えた。
「従わせるためです」
司祭が叫ぶ。
「異端だ!
罰を否定する気か!」
私は首を振る。
「否定していません」
一拍。
「理由のない罰を否定しています」
木槌が鳴る。
「有罪」
判決は変わらない。
「記録に残すな」
「残します」
私は言った。
四度目だった。
男は、連れて行かれた。
歩き方は、変わらない。
だが――
目は、こちらを見ていた。
法廷が空になる。
私は板を拭いた。
文字は消えた。
だが、
一行だけが、頭から離れない。
目的に寄与しない罰は、
合理的ではない
外で鐘が鳴る。
今日も王都は静かだ。
だが、
理由のない痛みが、
理由を問われた日だ。
誤字脱字はお許しください。




