第37話 欠席者
37話です。
説明会に、来なかった人がいる。
来られなかった人でもない。
知らなかった人でもない。
知った上で、来なかった人だ。
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翌朝、配給所で異変が起きた。
列は、いつも通りだった。
順番も、守られている。
だが――
一人、立っていない場所があった。
空白。
誰かが抜けたのではない。
最初から、並ばなかった。
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配給係が、顔を上げる。
「……次」
誰も来ない。
後ろの者が、戸惑って前に出る。
「え?」
配給係が、眉をひそめる。
「一人、
番号が飛んでいる」
その言葉に、
列がざわついた。
番号は、
数だ。
数は、
安全なものだったはずだ。
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「……あの人」
小さな声。
「最近、
来てない」
誰かが言う。
別の誰かが、
続ける。
「説明会にも
いなかった」
配給係が、
紙をめくる。
「……欠席理由は?」
誰も答えない。
欠席理由を
書く場所は、
元々なかった。
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その日の昼。
井戸でも、
同じことが起きた。
汲みに来ない。
理由は、
分からない。
だが、
続いた。
二人。
三人。
数字ではない。
場所の空きとして。
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私は、
市場の端で
それを見ていた。
誰も、
集まっていない。
相談も、
していない。
ただ、
同じことが
起きている。
「……数的思考だ」
誰かが、
冗談めかして言う。
すぐに、
笑いは消えた。
それは、
もう冗談ではなかった。
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役所に、
報告が上がる。
「……未接触者が
増えています」
上役が、
聞き返す。
「接触を
拒否している?」
書記は、
首を振る。
「拒否では
ありません」
「では?」
「来ていないだけです」
上役は、
机を叩かなかった。
怒鳴らなかった。
それが、
一番の異常だった。
「……理由は」
書記は、
正直に答えた。
「不明です」
沈黙。
制度が
最も嫌う言葉。
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夕方。
配給所の掲示板に、
新しい紙が貼られた。
未来所者は、
理由を申告せよ
署名は、
役所。
それだけで、
十分だった。
だが――
翌日も、
空白は埋まらなかった。
申告は、
なかった。
理由は、
書かれなかった。
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夜。
倉庫の裏に、
人は集まらなかった。
だが――
同じ時間、
別々の場所で、
同じ行動が起きていた。
並ばない。
汲まない。
受け取らない。
声を出さない。
ただ、
制度の手順に
参加しない。
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私は、
紙に書いた。
・来た
・来なかった
・来られなかった
そして、
新しい項目を
追加する。
・来ない
理由は、
書かない。
理由を
与えないためだ。
外で鐘が鳴る。
今日も王都は静かだ。
だが――
説明会に来なかった人間が、
制度の外側を
歩き始めた日だ。
誤字脱字はお許しください。




