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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


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35/41

第35話 名前をつける

35話です。

通達は、静かに出た。


掲示板の一番下。

誰も見上げない位置。


だが、

消されなかった。



近頃見られる

不必要な接触および記録行為について、


これを

「数的思考」

と呼ぶ。


当該思考は、

不安を増幅させ、

秩序を損なう恐れがある。


指導対象とする。


署名は、

教会と役所の連名だった。


それで、

十分だった。



市場で、

人が立ち止まる。


誰も、

声に出さない。


だが、

同じ行を

二度読む。


「……思考?」


誰かが、

小さく呟く。


それを聞いた別の誰かが、

すぐに視線を逸らす。


正解の反射だ。



私は、

掲示を見た。


名前が、

付いた。


それだけで、

一つの段階が終わる。


「数えること」が

「考え方」になった。


「考え方」は、

管理できる。



倉庫の裏。


四人が集まった。


前より少ない。


だが、

ゼロではない。


男が、

紙を見せる。


「……これ、

 俺たちのことだろ」


女が、

聞く。


「悪いこと?」


男は、

答えなかった。


代わりに、

彼――

戻ってきた男が言う。


「名前がついたってことは、

 もう隠れなくていい」


女が、

目を見開く。


「……どういう意味」


彼は、

静かに言った。


「隠すのは、

 名前がない時だ」


「名前がついたら」


一拍。


「議論になる」


私は、

その言葉を

訂正しなかった。



同じ頃。


役所の一室。


「定義しました」


書記が、

報告する。


上役は、

頷いた。


「よし」


「反応は」


「……減っています」


上役は、

満足そうだった。


「効果的だ」


書記は、

続けた。


「ただ」


一拍。


「質問が増えています」


上役の手が、

止まる。


「……どんな」


「『数的思考とは何か』」


「『なぜ不必要なのか』」


「『どこまでが該当するのか』」


沈黙。


それは、

嫌な沈黙だった。


上役が、

低く言う。


「……説明は」


書記は、

首を振った。


「定義以上は

 ありません」


「では、

 答えられないな」


書記は、

正直に言った。


「はい」



夜。


私は、

机に向かい、

新しい紙を出した。


名前を書く。


数的思考


その下に、

何も書かない。


空白。


それが、

一番危険な場所だ。


私は、

その空白を

見つめながら

思った。


教えなくても、

人は考える。


止めても、

名前を与えれば

考える。


問いは、

管理より

早い。


外で鐘が鳴る。


今日も王都は静かだ。


だが――

沈黙に名前がつき、

 説明が追いつかなくなった日だ。


チョークシリーズは他の先生の物語もありますのでよろしければご覧ください。

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