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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


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33/41

第33話 無視

33話です。

彼は、警告を読んだ。


読んで、

畳んで、

捨てなかった。


それだけだ。



紙は、

机の端に置かれていた。


毎朝、

目に入る位置。


忘れないためでも、

逆らうためでもない。


現実として、

そこにあるから。



彼は、倉庫の裏へ行った。


約束の時間を、

少し過ぎてから。


誰もいないと

分かっていても。


そこに、

立った。



彼は、職人だった。


手を動かす仕事。

数を数える仕事。


沈黙に、

慣れている。


だが――

慣れているのは、

 音のない時間であって、

 声を殺すことではなかった。



「……来ないか」


誰に言うでもなく、

呟く。


返事は、

ない。


それでも、

帰らなかった。


警告は、

「やめろ」と

書いてあった。


「立つな」とは、

書いていなかった。



彼は、

地面に印をつけた。


チョークではない。

石で。


一本、

線を引く。


それは、

数ではない。


位置だ。


「ここに、

 いた」


それだけを、

残すための。



背後に、

気配があった。


振り返ると、

二人。


役所の男ではない。

制服もない。


だが、

仕事の顔だった。


「……遅いな」


一人が言う。


「時間は、

 守った」


彼は、

答えた。


もう一人が、

周囲を見る。


「誰も、

 いない」


彼は、

頷いた。


「だから、

 来た」


沈黙。


短いが、

濃い沈黙。


「警告は、

 受け取ったか」


彼は、

即答した。


「はい」


「では、

 なぜここに?」


彼は、

少し考えてから

答えた。


「……やめ方が

 書いてなかった」


二人の間で、

空気が動く。


「これは、

 違反だ」


彼は、

否定しない。


「そうでしょう」


一人が、

一歩近づく。


「連れて行く」


彼は、

聞いた。


「どこへ」


「確認だ」


彼は、

頷いた。


抵抗しない。


逃げない。


それが、

一番困る反応だった。



翌日。


役所に、

新しい文書が回った。


注意事例:

 警告後の単独行動


罰則は、

書かれていない。


処分も、

ない。


ただ、

一行。


当該人物は、

当面の間、

行動を自粛すること。


誰が、

どうやって

自粛させるかは

書いていない。


必要ないからだ。



彼は、

戻ってきた。


連れて行かれて、

戻ってきた。


傷は、

ない。


痣も、

ない。


だが――

口数が、

 減っていた。


誰も、

何も聞かない。


聞かないことが、

優しさだと

学んでいるから。



夜。


彼は、

机に向かい、

紙を一枚出した。


何も書かない。


ただ、

置く。


警告の紙の横に。


二枚並ぶ。


どちらも、

命令ではない。


どちらも、

説明がない。


だが――

片方は、

 「やめろ」と言い、

 もう片方は、

 「戻った」と

 証明している。



彼は、

考えた。


続けるべきか。


やめるべきか。


だが、

その問い自体が

もう古いと

気づいた。


やめたとしても、

 何かは残る。


警告は、

残った。


線も、

残った。


彼が、

立ったという事実も。



翌朝。


市場で、

誰かが囁いた。


「……戻ってきたらしい」


それだけ。


名前も、

理由もない。


だが――

噂は、

 数えられない速度で

 増える。


外で鐘が鳴る。


今日も王都は静かだ。


だが――

警告を無視した人間が、

 消されなかった事実が、

 初めて共有された日だ。


チョークシリーズは他の先生の物語もありますのでよろしければご覧ください。

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