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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


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第29話 怒りの順番

29話です。

集まったのは、五人だった。


多くはない。

だが、足りていた。



場所は、倉庫の裏。


市場から外れ、

人目につかない。


最初に口を開いたのは、

女だった。


最初の夜に来た、

あの女だ。


「……前例に

 なったそうです」


誰も、

聞き返さなかった。


全員が、

もう知っていた。


「名前は?」


男が聞く。


二人目の夜に来た、

あの男だ。


女は、

首を振った。


「ありません」


その答えで、

場が固まる。


「……死んだのに?」


「ええ」


女は、

静かに言う。


「参考事例だそうです」


誰かが、

小さく息を吸った。


怒鳴らない。

机を叩かない。


正しい怒り方を

 知らないからだ。



三人目が言った。


「俺は、

 あの家を知ってる」


「静かな子だった」


その言葉が、

もう出てしまったことに

気づいて、

男は黙った。


四人目が、

続ける。


「……私の子も」


視線が集まる。


「最近、

 何も言わなくなった」


「正解だから、

 安心しろって」


女は、

言葉を探す。


「でも」


一拍。


「同じ顔をしてる」


全員が、

同時に理解した。


あの布団の中の顔を。



五人目は、

何も言わなかった。


ただ、

一枚の紙を出した。


折りたたまれている。


参考事例:

 沈黙下における

 自然終結


その見出しを見た瞬間、

女の手が震えた。


「……これを」


五人目が言う。


「読めと言われました」


誰に、とは言わない。


言う必要がない。


「教えとして?」


男が聞く。


五人目は、

頷いた。


「子どもに」


沈黙。


それは、

耐える沈黙ではない。


判断する沈黙だった。



女が、

ゆっくり言った。


「怒っても、

 いいですよね」


その問いは、

弱々しい。


だが、

確かだった。


男が答える。


「……順番がある」


全員が、

男を見る。


「怒る前に」


一拍。


「分からなきゃ

 いけない」


「何を」


「どうして、

 こうなったか」


女が、

小さく言う。


「……先生」


全員が、

その名前を

口にしなかった。


だが、

同じ方向を見た。


「先生は」


男が言う。


「止められたか?」


誰も、

答えなかった。


五人目が、

静かに言う。


「……止めようと

 していた」


「だから、

 止められた」


その理屈は、

冷たく、

正確だった。



女が、

深く息を吸った。


「……じゃあ」


一拍。


「私たちは、

 何をすればいい?」


その問いで、

場の空気が

変わった。


怒りは、

もうある。


だが、

向け方が

分からない。


男が言う。


「声を上げると、

 消される」


「黙ると、

 前例になる」


女が、

拳を握る。


「……どっちも

 だめ」


五人目が、

紙を折り直した。


「だから」


一拍。


「学ぶしかない」


全員が、

顔を上げる。


「何を」


五人目は、

はっきり言った。


「どうやって

 怒ればいいか」


沈黙。


それは、

恐ろしい沈黙ではなかった。


始まりの沈黙だった。



その夜、

王都は変わらなかった。


鐘も鳴る。

市場も動く。


だが――

五人が、

 正解の外で

 同じ問いを持った。


それだけで、

十分だった。


チョークには別先生が織りなすシリーズもあります。よろしければご覧ください。

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