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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


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28/41

第28話 前例

28話です。

会議は、短かった。


感情を挟む余地が、

最初からなかった。



円卓には、五人。


司祭、

役所の上役、

医師、

書記、

そして――

私。


呼ばれた理由は、

明確だった。


「確認のためだ」


司祭が言う。


「先日の件について」


誰も、

「死」とは言わなかった。


それが、

最初の処理だった。



書記が、

紙を読み上げる。


「家庭内における

 未成年者の衰弱死」


「外傷なし」


「暴力なし」


「救援要請なし」


「よって――」


一拍。


「制度上の不備は

 確認されず」


医師が、

淡々と頷く。


「医学的にも、

 異常はない」


私は、

思わず聞いた。


「……異常とは」


医師は、

即答した。


「規定外の死因です」


その言葉は、

完成していた。



司祭が、

手を組む。


「問題は、

 再発防止だ」


私は、

顔を上げた。


「再発防止?」


司祭は、

穏やかに言った。


「同様の事例が

 起きた場合」


「どう扱うか」


私は、

言葉を選んだ。


「……助けを

 呼ばせる」


司祭は、

首を振った。


「違う」


「期待を

 持たせない」


空気が、

凍る。


「期待?」


私は、

聞き返した。


「助けを呼べば

 何かが変わる、

 という期待だ」


司祭は、

静かに続ける。


「それは、

 秩序を乱す」


「今回の件で、

 明確になった」


私は、

背筋が冷えた。


「明確に?」


司祭は、

はっきり言った。


「黙っていた方が、

 問題は

 表に出ない」


「表に出なければ、

 処理も不要だ」


私は、

低く言った。


「……人が、

 死んだ」


司祭は、

微笑んだ。


「前例ができた」


その言葉で、

全てが変わった。



書記が、

新しい紙を出す。


見出し。


参考事例:

 沈黙下における

 自然終結


私は、

目を疑った。


「自然……?」


役所の上役が、

補足する。


「事故でも、

 犯罪でもない」


「制度の外で

 起きた事象だ」


私は、

拳を握った。


「外?」


司祭は、

頷いた。


「助けを呼ばない、

 という選択は

 個人のものだ」


「制度は、

 尊重した」


私は、

声が震えた。


「それは、

 教育の結果だ」


司祭は、

即答した。


「成功例だ」


その瞬間、

私は理解した。


彼らは、

死を否定していない。


利用している。



司祭が、

私を見た。


「先生」


その呼び方は、

もう皮肉だった。


「この前例は、

 今後の

 教育指針になる」


「だから」


一拍。


「あなたの責任でもある」


私は、

立ち上がった。


「いいえ」


司祭は、

眉を動かす。


「何が違う」


私は、

はっきり言った。


「私は、

 問いを残しました」


「あなた方は」


一拍。


「答えを

 殺しました」


沈黙。


誰も、

反論しなかった。


反論の必要が

なかったからだ。



会議は、

それで終わった。


廊下を歩きながら、

私は気づく。


もう、

止まらない。


制度は、

学習してしまった。


黙って死ねば、

 問題にならない。


それが、

新しい正解だ。


外で鐘が鳴る。


今日も王都は静かだ。


だが――

沈黙が、

正式な前例として

保存された日だ。


チョークには別先生が織りなすシリーズもあります。よろしければご覧ください。

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