第24話 教育停止
24話です。
命令は、紙一枚だった。
署名はある。
理由は、ない。
教育活動を、即時停止せよ。
それだけだ。
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教室に入ると、子どもたちはもう座っていた。
誰かに言われたわけではない。
言われる前に、そうした。
私は、教壇に立たなかった。
立つ意味が、
もうなかったからだ。
副監督官が、後ろに立つ。
今日は、
笑っていない。
「通達を読む」
低い声。
「本日より、
当該教員の
教育活動を停止する」
子どもたちの視線が、
一斉に私に集まる。
声は、上がらない。
上げ方を、
もう覚えていない。
「理由は」
副監督官は、
紙を見ない。
「家庭教育指導との不整合」
私は、
静かに聞いた。
「具体的には」
副監督官は、
一拍置いて答えた。
「質問を、
肯定した」
教室の空気が、
重くなる。
「助けたい、
という動機を
否定しなかった」
子どもが、
一人、身じろぎした。
あの子だ。
私は、
目で制した。
今は、
話さなくていい。
それもまた、
残酷な判断だ。
「以上だ」
副監督官は、
紙を畳んだ。
「授業は、
ここまで」
誰も、
立ち上がらない。
副監督官が、
少し苛立った声で言う。
「解散」
椅子が、
ゆっくり動く。
子どもたちは、
出口に向かう。
途中で、
立ち止まる子がいる。
振り返って、
私を見る。
何かを、
待っている。
私は、
何も言わなかった。
最後の授業は、
沈黙だった。
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廊下で、
副監督官が言った。
「これで、
問題は終わります」
私は、
歩きながら答えた。
「いいえ」
「なぜ」
「教育は、
停止できません」
副監督官は、
足を止めた。
「今のは、
挑発か」
私は、
首を振る。
「事実です」
「考えたことは、
消せない」
「理解したことも」
副監督官は、
静かに言った。
「だから、
次はあなたです」
私は、
頷いた。
「分かっています」
それが、
一番怖い答えだと
分かっていて。
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その夜。
家に帰った子どもは、
机に向かったまま
動かなかった。
教科書は、
開かれていない。
母が、
そっと聞く。
「今日は、
どうだった?」
子どもは、
少し考えてから言った。
「……先生、
いなくなった」
母の胸が、
詰まる。
「どうして?」
子どもは、
答えた。
「質問したから」
母は、
言葉を失った。
「でも」
子どもは、
続けた。
「質問しないと、
助けられないって
言ってた」
母は、
子どもを抱きしめた。
強く。
「もう、
考えなくていい」
子どもは、
小さく言った。
「……でも」
母は、
それ以上
聞かなかった。
聞けなかった。
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翌朝。
学校の掲示板に、
新しい紙が貼られた。
当面、
対話型教育を停止する。
誰も、
紙を見上げない。
見なくても、
分かるからだ。
王都は、
今日も静かだ。
だが――
教師が消えた後に残るのは、
正解だけだ。
誤字脱字はお許しください。




