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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


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第23話 共有事項

23話です。

朝、教室の空気が違った。


静かさの質が、

昨日までと違う。


子どもたちは、

机に向かっている。


背筋が伸び、

視線は前。


正解の姿勢だった。


私は、教壇に立った。


黒板には、

何も書いていない。


チョークも、

置いていない。


それでも、

全員が私を見ている。


「共有事項があります」


教室の後ろから、

声がした。


副監督官だ。


いつから、

教室に立つようになったのか。


私は、

何も言わなかった。


言わない方が、

進行が早い。


「本日より」


副監督官が言う。


「各家庭での

 教育指導結果を、

 学校と共有します」


子どもたちが、

一斉に瞬きをする。


理解していない。

だが、

危険だとは分かっている。


「安心してください」


副監督官は、

優しい声だった。


「これは、

 子どもたちを

 守るための措置です」


私は、

その言葉を

黒板に書かずに、

心に刻んだ。


守るため。


一番、

反論しにくい言葉だ。



「質問は?」


副監督官が言う。


誰も、

手を挙げない。


正解だ。


「では、

 授業を続けてください」


私は、

頷いた。


続けるとは、

何をすることなのか。


それを、

誰も定義しなかった。



私は、

子どもたちを見渡した。


一人、

視線が揺れている。


あの子だ。


昨夜、

家で質問をした子。


私は、

気づかないふりをした。


それが、

今の正解だ。


だが――

子どもは、

違った。


小さく、

手を挙げた。


一瞬で、

教室の空気が凍る。


副監督官の視線が、

鋭くなる。


私は、

何も言わなかった。


許可も、

拒否も。


子どもは、

それをどう受け取ったか。


ゆっくり、

立ち上がった。


「……先生」


その呼び方だけで、

十分だった。


副監督官が、

一歩前に出る。


「発言は、

 必要ありません」


子どもは、

首を振った。


「……先生を、

 助けたいです」


私は、

胸が締め付けられた。


「先生は、

 困る人だって

 言われました」


教室が、

完全に静まる。


「だから」


子どもは、

一生懸命

言葉を選んだ。


「……もう、

 質問しません」


副監督官が、

微笑んだ。


「素晴らしい判断です」


私は、

思わず口を開いた。


「違う」


その一言は、

教室に落ちた。


副監督官が、

私を見る。


「先生」


低い声。


「今の発言は、

 共有事項に反します」


私は、

子どもを見た。


あの目だ。


褒められたと思っている目。


私は、

はっきり言った。


「質問しないことで、

 誰かを助けることは

 できない」


副監督官が、

即座に言う。


「それは、

 不適切な指導です」


私は、

続けた。


「助けたいと思った時点で、

 もう黙れなくなっている」


子どもが、

混乱した顔になる。


「……じゃあ、

 どうすれば」


私は、

一歩踏み出した。


「それを考えるのが、

 授業だ」


副監督官が、

私の前に立った。


「ここまでです」


その声で、

全てが決まった。


「この発言は、

 家庭指導結果と

 矛盾しています」


私は、

静かに言った。


「ええ」


一拍。


「だから、

 問題なんです」


副監督官は、

私を見下ろした。


「記録します」


私は、

頷いた。


「どうぞ」


子どもは、

立ったままだ。


誰も、

座れと言わない。


「先生」


子どもが、

震える声で言った。


「……助けようと

 したのに」


私は、

目を逸らさずに答えた。


「ありがとう」


その一言で、

子どもは泣いた。


声を出さずに。


正しい泣き方だった。



授業は、

それで終わった。


廊下に出ると、

副監督官が言った。


「家庭と学校の

 足並みが

 揃っていません」


私は、

歩きながら答えた。


「揃える必要は、

 ありません」


「なぜ」


私は、

立ち止まった。


「考える速さは、

 揃えられない」


副監督官は、

しばらく私を見て――

何も言わなかった。


それが、

記録される沈黙だった。



その日、

家庭に戻った子どもは、

何も話さなかった。


褒められなかったからではない。


褒められる答えが、

 分からなくなったからだ。


外で鐘が鳴る。


今日も王都は静かだ。


だが――

沈黙が、

学校と家庭で

食い違い始めた。


誤字脱字はお許しください。

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