表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/41

第21話 届いた沈黙

21話です。

役所の朝は、早い。


書類は、人より先に起きる。

人は、それを処理するだけだ。


父は、いつも通り机に向かった。


いつも通り、

何も考えずに。



最初の書類は、

配給記録。


次は、

水位報告。


その次に、

見慣れない紙があった。


薄い。

署名はない。


家庭内発言記録(参考)


父の手が、止まる。


「参考」という言葉は、

役所では危険だ。


処理方法が、

決まっていないという意味だからだ。


父は、

ゆっくり読み進めた。


子どもが、

「分からないふりは嘘か」と発言

家庭内にて

保護者は、

発言を制止

その後、

子どもは沈黙


父は、

息を止めた。


文面は、

淡々としている。


感情も、

評価もない。


ただ、

起きたことだけ。


それが、

一番怖かった。



「これ、誰が書いた」


隣の席の男に、

小声で聞く。


男は、

肩をすくめた。


「分からん。

 でも――」


一拍。


「書かれたってことは、

 聞いたやつがいる」


父は、

視線を落とした。


昨夜、

家の中には三人しかいなかった。


だが、

壁は薄い。


扉も、

完全ではない。


「……処理は?」


男は、

さらに声を落とす。


「まだだ。

 でも、

 溜めるなって言われてる」


父は、

紙を持つ手が震えるのを感じた。


「溜めるな」


それは、

早く切れという意味だ。



昼前、

上役が来た。


机の間を、

ゆっくり歩く。


目は、

紙を見ていない。


人を見ている。


父の机で、

足が止まった。


「……これか」


父は、

何も言えなかった。


「家庭内か」


上役は、

小さく頷く。


「最近、

 多い」


父は、

思わず聞いた。


「……どう、

 なるんですか」


上役は、

淡々と答えた。


「様子を見る」


父の胸が、

少しだけ軽くなる。


「様子を見る」

今すぐではない。


だが、

上役は続けた。


「ただし」


一拍。


「教育の結果と

 判断されれば、

 別扱いだ」


父は、

顔を上げた。


「教育……?」


上役は、

書類を指で叩いた。


「質問の形が、

 きれいすぎる」


父は、

何も言えなかった。



その日の帰り道、

父は遠回りをした。


家に、

すぐ帰れなかった。


「質問の形が、

 きれいすぎる」


その言葉が、

頭から離れない。


家に着くと、

子どもは宿題をしていた。


静かだ。


正解の静けさ。


父は、

声をかけようとして――

やめた。


昨日と同じ選択。


一番、安全な。


だが、

今日は違った。


子どもが、

顔を上げた。


「ねえ」


父は、

体が強張るのを感じた。


「……今日は、

 学校で」


一拍。


「何も言わなかったよ」


その報告は、

誇らしげだった。


父は、

笑おうとして――

笑えなかった。


「えらいな」


そう言うしかなかった。


子どもは、

嬉しそうに頷いた。


「先生、

 見てた」


父の心臓が、

跳ねた。


「……何も、

 言わなかった」


子どもは、

もう一度言った。


「正解、

 だったでしょ」


父は、

頷いた。


それ以外の答えを、

知らなかった。



夜。


父は、

机に向かい、

何も書いていない紙を見つめていた。


役所で見た書類。


署名のない記録。


参考という名の、

予告。


彼は、

はっきり理解していた。


もう、

家庭は外だ。


沈黙は、

もう届いている。


外で鐘が鳴る。


今日も王都は静かだ。


だが――

静かにしたはずの問いが、

 正式な書類になった日だ。



(第22話へ続く)


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ