表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/41

第20話 家で開いた口

20話です。

その夜、

家の中で、声がした。


大きな声ではない。

怒鳴り声でも、泣き声でもない。


質問の声だ。



夕食の卓に、三人が座っていた。


父と、母と、子ども。


今日の話題は、

いつもと同じだ。


「今日は、どうだった」


父が聞く。


子どもは、

少し考えた。


母が、

先に言った。


「何も言わなくていいのよ」


それは、

優しい声だった。


子どもは、

頷きかけて――

やめた。


「……先生が、

 分からないって言った」


空気が、止まった。


父が、箸を置く。


「誰が」


「先生」


「何を」


「白い点」


子どもは、

卓の上に、指で点を描いた。


「これ」


「それで?」


母が、慎重に聞く。


「黙ると、

 忘れるって」


父の眉が、

僅かに動いた。


「……それは、

 良い教えだ」


子どもは、

首を振った。


「でも」


一拍。


「全部黙ったら、

 何も分からないって」


父が、

黙り込んだ。


母が、

笑顔を作る。


「それは、

 考えなくていいことよ」


子どもは、

不思議そうに母を見る。


「どうして?」


母は、

答えを探した。


探して、

見つからなかった。



しばらくして、

父が言った。


「……その話は、

 外でしちゃいけない」


子どもは、

即座に聞いた。


「どうして?」


父は、

言葉に詰まった。


その沈黙は、

教えられていない沈黙だった。


「……危ないからだ」


「何が?」


父は、

ゆっくり言った。


「分かろうとすると、

 困る人がいる」


子どもは、

目を見開いた。


「誰が?」


父は、

答えなかった。


答えられなかった。


母が、

急いで言った。


「今日は、

 もう寝ましょう」


子どもは、

立ち上がった。


だが、

寝室に向かわず、

振り返った。


「ねえ」


父と母を見る。


「分かると、

 悪いことなの?」


その問いは、

小さく、

まっすぐだった。


父は、

ようやく言った。


「……時々は」


子どもは、

少し考えてから言った。


「じゃあ」


一拍。


「分からないふりは、

 嘘?」


その瞬間、

家の中の空気が、

壊れた。


母が、

手を口に当てる。


父が、

椅子から立ち上がる。


「……その話は、

 もう終わりだ」


子どもは、

俯いた。


「……ごめんなさい」


だが、

その声には、

納得がなかった。



その夜、

子どもは眠れなかった。


暗い天井を見ながら、

白い点を思い出す。


何だったのか。

なぜ、

分からないままなのか。


そして、

静かに思った。


分からないままの方が、

 楽になるって、

 大人は言ってた。


でも――

 分からないままだと、

 怖い。


布団の中で、

小さく手を握る。


明日、

また授業がある。


先生は、

何も書かない。


何も言わない。


でも、

何かを残していく。



翌朝。


父は、

役所に向かう前、

立ち止まった。


昨夜の言葉が、

頭から離れない。


「分からないふりは、

 嘘?」


その言葉を、

誰かが聞いたら。


誰かに、

伝わったら。


父は、

戸口で振り返った。


子どもは、

靴を履いている。


いつもより、

静かだ。


父は、

何かを言いかけて――

やめた。


それが、

 一番安全な選択だと

 知っているからだ。



王都の朝は、

いつも通り静かだった。


だが――

家の中で生まれた問いは、

 もう外に出たがっている。


そして、

それを聞いた者は、

必ず一人では終わらない。



(第21話へ続く)


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ