第18話 教えろ
18話です。
呼び出しは、裁判ではなかった。
判決文でもない。
通達でもない。
ただ、
「来い」
それだけだった。
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部屋は、法廷より小さい。
窓がない。
椅子が三つ。
机が一つ。
司祭と、判事と、
それから――
私。
「座れ」
命令形だった。
私は、座らなかった。
「確認します」
判事が、眉をひそめる。
「立ったままでいい」
私は、周囲を見回した。
「ここは、
裁判所ではありませんね」
司祭が答えた。
「だから呼んだ」
「では、
私は被告ではない」
「その通りだ」
一拍。
「お前は、資源だ」
言葉が、
静かに落ちた。
私は、何も言わなかった。
「理解しているだろう」
司祭が続ける。
「街は、学習している」
「沈黙を」
「正解を」
「秩序を」
私は、口を開いた。
「それは、
教育ではありません」
司祭は、頷いた。
「分かっている」
私は、息を呑んだ。
「だが、
効果がある」
判事が、机に手を置く。
「お前は、
人に考えさせる」
「問いを残す」
「言葉を、
整理してしまう」
私は、答えた。
「それが、
教師です」
司祭は、微笑んだ。
「だからだ」
一拍。
「沈黙も、
教えられる」
私は、ゆっくり首を振った。
「沈黙は、
選択です」
「ならば」
司祭が言った。
「選ばせなければいい」
空気が、
一段冷えた。
「命令だ」
判事が言う。
「お前は、
子どもたちに教えろ」
「何を」
「いつ、
話してはならないか」
私は、即答した。
「断ります」
その言葉は、
予想されていたらしい。
司祭は、落ち着いて言った。
「断る権利はある」
私は、僅かに安堵した。
「だが」
一拍。
「断った理由を、
説明しろ」
私は、答えた。
「沈黙を教えることは、
思考を止めることだからです」
司祭は、首を振った。
「違う」
「何が」
「思考は止まらない」
司祭は、静かに言った。
「ただ、
外に出なくなるだけだ」
私は、言葉を失った。
「それで十分だ」
判事が言う。
「考えは、
中にあればいい」
私は、震える声で言った。
「……それは、
教育の死です」
司祭は、はっきり言った。
「違う」
一拍。
「統治の完成だ」
沈黙が落ちた。
この部屋で、
一番重い沈黙だ。
「期限を与える」
判事が言う。
「三日だ」
「沈黙を教えるか」
「それとも」
司祭が、続けた。
「教えられない者として、
処理されるか」
私は、何も答えなかった。
答えを、
与えたくなかった。
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部屋を出ると、
廊下がやけに長く感じた。
外に出ると、
子どもたちの声が聞こえる。
笑い声。
質問。
くだらない言い合い。
私は、立ち止まった。
あの声を、
どうやって黙らせる。
いや――
どうやって、
黙ることを
正解として教える。
空を見上げる。
曇っている。
今日も王都は静かだ。
だが――
沈黙が、
授業になる日が来た。
誤字脱字はお許しください。




