第14話 語る資格
14話です。
通達は、掲示されなかった。
その必要がなかったからだ。
法廷に入った瞬間、
私は違和感に気づいた。
証言台が、低い。
いや――
削られている。
子ども用ではない。
大人用でもない。
「審理を開始する」
判事の声が落ちる。
被告席に立つのは、一人。
男。
職は、分からない。
というより――
名乗らせてもらえない。
「罪状を読み上げる」
司祭が言う。
「不適切な発言。
理解を伴う言語使用。
身分不相応な意見表明」
私は、眉をひそめた。
「確認します」
判事が、短く頷く。
私は男を見る。
「あなたの身分は」
男は、答えかけ――
言葉を止めた。
司祭が、先に言う。
「記録不要だ」
私は、続けた。
「では質問を変えます」
男に向き直る。
「あなたは、
何を言いましたか」
男は、ゆっくり答えた。
「……なぜ、
私だけが罰せられるのかと」
法廷が、ざわつく。
「それは、
身分を越えた発言だ」
司祭が言う。
「確認します」
私は、静かに言った。
「質問は、
身分を持ちますか」
沈黙。
私は、空気に押すように続ける。
「疑問は、
生まれで変わりますか」
司祭は、冷たく言った。
「変わる」
即答だった。
私は、頷いた。
「つまり」
一拍。
「あなた方は、
言葉に“身分”を与えている」
私は、証言台を見る。
「だから、
高さを削った」
司祭が、眉をひそめる。
「何の話だ」
私は、男を見た。
「あなたは、
この台に立って
話しにくいですか」
男は、苦笑した。
「……背を、
丸めないと」
「なぜですか」
「低いからです」
私は、法廷全体に向けて言った。
「語る姿勢まで、
決めている」
「これが、
あなた方の言う
秩序です」
司祭が、声を荒げる。
「秩序とは、
身分を守ることだ!」
私は、静かに返した。
「いいえ」
一拍。
「身分を守るために、
言葉を壊しています」
判事が、木槌を取る。
「結論を述べろ」
私は、答えた。
「この男の罪は、
発言内容ではありません」
「では、何だ」
「話す資格を、
持っているように
振る舞ったことです」
男が、息を吸った。
「……じゃあ、
俺は、
黙ってればいいのか」
司祭が言う。
「それが正しい」
私は、即座に言った。
「いいえ」
法廷が、止まる。
「黙らせるために
資格を作った時点で」
一拍。
「裁判は、
教育を殺しています」
木槌が鳴る。
「有罪」
短い。
「語る資格なし。
今後の発言を禁ず」
男は、連れて行かれた。
抵抗はない。
ただ、
振り返って私を見た。
「……次は、
誰が話せなくなる」
私は、答えなかった。
答えは、
もう決まっている。
法廷が空になる。
私は、削られた証言台を見た。
低い。
低すぎる。
だが――
沈黙には、
高さの制限がない。
外で鐘が鳴る。
今日も王都は静かだ。
だが――
言葉が、
身分で切り分けられ始めた。
誤字脱字はお許しください。




