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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


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第13話 空席の証人

13話です。

被告席に、私の名は呼ばれなかった。


呼ばれたのは、役職だけだ。


「――記録官」


それで十分だった。


私は立ち、中央へ進んだ。

法廷に、ざわめきが走る。


初めてだ。

この位置から、法廷を見るのは。


「罪状を読み上げる」


司祭の声は、いつもより整っている。


「裁判進行の逸脱。

 不必要な発言の挿入。

 秩序攪乱の助長」


私は、否定しなかった。


否定する必要がない。


「弁明はあるか」


「あります」


即答だった。


その瞬間、

傍聴席が静まり返った。


「確認します」


私は、判事を見る。


「本日の裁判には、

 証人が二人いると理解しています」


司祭が、眉をひそめる。


「被告は一人だ」


「いいえ」


私は、被告席の横――

空いている証言台を見た。


「一人は、

 ここにいます」


私は、自分の胸に手を置いた。


「もう一人は、

 ここにいません」


空気が、止まる。


「何を言っている」


判事が言う。


「説明します」


私は、ゆっくり言葉を選んだ。


「本件の発端は、

 子どもが帳簿を理解したことです」


「その事実を、

 あなた方は問題視した」


司祭が言う。


「当然だ」


「では」


私は、空席を指した。


「その子どもを、

 ここに呼びましたか」


沈黙。


「呼んでいません」


「理由は」


「不要だからだ」


私は、頷いた。


「はい」


一拍。


「理解しているから、不要なのですね」


ざわめき。


「確認します」


私は、法廷全体に向けて言った。


「あなた方は、

 子どもが理解したことを

 問題にしている」


「だが、

 その理解を

 言葉にさせることは

 拒んでいる」


私は、板のない机に、

見えない線を引いた。


理解 → 言語化(遮断)


「つまり」


私は、結論を置いた。


「理解は罪だが、

 証言は不要」


司祭が、声を荒げる。


「子どもを、

 裁判の道具にするな!」


私は、静かに返した。


「既にしています」


沈黙。


「呼ばないこと自体が、

 扱いです」


私は、被告席から一歩踏み出した。


「では確認します」


「私の罪は、

 何でしょうか」


司祭は、即答した。


「教えたことだ」


「いいえ」


私は首を振る。


「私は、

 教えたことを

 否定されていません」


一拍。


「教えた結果を、

 整理しただけです」


「整理とは」


「言葉にすることです」


私は、空席を見る。


「その子は、

 もう言葉を持っています」


「だから、

 ここに立たせない」


「同時に」


私は、自分を指した。


「その言葉を

 整理した私を

 ここに立たせた」


私は、ゆっくり言った。


「これは、

 証人を裁く裁判ではありません」


判事が、低く言う。


「では、何だ」


私は、答えた。


「理解を切り離す裁判です」


「分かる者と、

 語る者を分断する」


「そうすれば」


一拍。


「誰も、

 全体を持てない」


法廷が、重く沈む。


誰も、否定しない。


否定できない。


「結論を述べろ」


判事が言う。


「結論です」


私は、はっきり言った。


「私が裁かれているのは、

 言葉です」


「空席が裁かれているのは、

 理解です」


「二つを同時に消せば、

 秩序は保たれる」


司祭が、静かに言った。


「その通りだ」


私は、頷いた。


「理解しました」


木槌が鳴る。


「有罪」


短い。


「記録に残すな」


私は、答えなかった。


答える必要がなかった。


法廷が、終わる。


私は、被告席から戻らなかった。


戻れなかった。


空席を、もう一度見た。


誰もいない。


だが――

確かに、

 そこに証人はいた。


外で鐘が鳴る。


今日も王都は静かだ。


だが――

理解と、言葉が、

 同時に消されようとしている。

誤字脱字はお許しください。

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