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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


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第12話 教えた者と、見ていた者

12話です。

被告席に立ったのは、三人だった。


一人は、倉庫で働いていた男。

帳簿の読み方を、あの子に教えたという理由で呼ばれた。


もう一人は、女。

あの子の母親だ。


残る一席は、空いている。

そこに立つ予定の者の名は、まだ呼ばれていない。


「罪状を読み上げる」


司祭の声が、法廷に落ちる。


「教育の不適切な実施。

 未成年者への有害知識の付与。

 秩序攪乱の助長」


母親は、顔を伏せたまま動かない。

男は、まっすぐ前を見ている。


「弁明はあるか」


男が、先に答えた。


「教えました」


即答だった。


傍聴席が、ざわめく。


「何を」


「数の読み方です」


「理由は」


「必要だったからです」


司祭が、声を強める。


「子どもに、

 帳簿を理解させる必要などない!」


私は、声を出していた。


「確認します」


判事が、短く頷く。


私は男を見る。


「あなたは、

 何のために数を教えましたか」


「配給を、

 間違えないためです」


「誰のために」


「……あの子のために。

 それから、

 受け取る人たちのために」


私は、空の机に手を置いた。


「結果は」


「……間違いに、

 気づきました」


司祭が、苛立ったように言う。


「それが、

 秩序を乱した」


私は、母親に向き直った。


「あなたは、

 その様子を見ていましたか」


母親は、ゆっくり頷いた。


「……見ていました」


「止めましたか」


首を振る。


「なぜ」


母親は、しばらく黙ってから言った。


「……嬉しそうだったからです」


法廷が、静まった。


「何が」


「分かったって、

 顔をしていたから」


司祭が、冷たく言う。


「感情論だ」


「いいえ」


私は、はっきり言った。


「観察です」


私は、二人の間に視線を置いた。


「教えた者と、

 見ていた者」


「この二人が、

 同時に裁かれている理由を、

 確認します」


私は、ゆっくり言葉を並べた。


「この裁判が、

 問題にしているのは――」


一拍。


「結果ではありません」


判事が、眉をひそめる。


「では、何だ」


「過程です」


私は、続けた。


「子どもが理解に至るまでの、

 その一歩一歩」


「それを、

 許さなかった」


司祭が言う。


「理解は、

 危険だからだ」


私は、母親を見る。


「あなたは、

 危険だと思いましたか」


母親は、首を振った。


「……怖かったのは、

 分かった後です」


「何が」


「戻れなくなることが」


私は、頷いた。


「それは、

 とても正確です」


法廷が、ざわつく。


「確認します」


私は、司祭を見る。


「あなた方は、

 理解を止めたいのですか」


「そうだ」


即答だった。


「理由は」


「秩序のためだ」


私は、空の机を指した。


「では」


言葉を置く。


「理解を止めるために、

 何をしましたか」


沈黙。


「教えた者を、

 罰しました」


「見ていた者を、

 罰しました」


私は、結論を言った。


「理解そのものではなく、

 理解に近づいた人間を、

 消しています」


司祭が、声を荒げる。


「それが、

 統治だ!」


私は、首を振った。


「いいえ」


一拍。


「それは、

 伝染病対策です」


空気が、凍る。


「分かるという状態を、

 病として扱っている」


判事が、木槌を取る。


「結論を述べろ」


「結論です」


私は、はっきり言った。


「この二人の罪は、

 教えたことでも、

 見ていたことでもありません」


一拍。


「止めなかったことです」


母親が、顔を上げた。


「……止めたら、

 あの子は、

 何も分からないまま

 大人になります」


私は、頷いた。


「はい」


司祭が、叫ぶ。


「それでいい!」


私は、静かに返した。


「それは、

 教育ではありません」


木槌が鳴る。


「有罪」


三人分の音だった。


空いていた被告席に、

最後の名が呼ばれる。


「――記録官」


私の名ではない。

だが、役職が呼ばれた。


「次は、

 あなたです」


法廷が、止まった。


母親が、私を見た。


男も、見た。


私は、二人に向かって、

小さく頷いた。


外で鐘が鳴る。


今日も王都は静かだ。


だが――

教え、見守り、

 止めなかった者たちが、

 同時に消され始めた。


誤字脱字はお許しください。

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