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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


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第11話 数を読んだ子ども

11話です。

被告は、子どもだった。


年は十にも満たない。

背伸びをしても、証言台の縁に指が届かない。


法廷が、ざわついた。


子どもが立つ場所ではない。

誰もが、そう思っている。


「罪状を読み上げる」


司祭の声は、いつもより低かった。


「帳簿の不正閲覧。

 配給記録の理解。

 秩序攪乱」


理解、という言葉が、

不自然に響いた。


「弁明はあるか」


子どもは、首を振った。


否定もしない。

肯定もしない。


ただ、立っている。


私は、何も持たない手を見つめていた。

板はない。

だが、耳は塞がれていない。


「確認します」


判事が、短く頷く。


私は、子どもに向いた。


「あなたは、

 帳簿を見ましたか」


「はい」


小さな声だった。


「文字は、読めましたか」


「……少しだけ」


傍聴席から、息を呑む音。


「誰に教わりましたか」


子どもは、少し考え、


「……先生に」


また、その言葉だ。


司祭が、苛立ったように指を鳴らす。


「関係ない」


「関係あります」


私は、はっきり言った。


「読むことが罪なら、

 教えた側が先です」


法廷が、静まる。


「次の質問です」


私は、子どもと同じ高さまで、

少し腰を落とした。


「帳簿を見て、

 何が分かりましたか」


子どもは、戸惑った。


「……分からないって、

 分かりました」


司祭が、笑う。


「意味不明だ」


「いいえ」


私は、続ける。


「とても正確です」


子どもは、勇気を出したように言った。


「……数字が、

 合ってなかった」


「どこが」


「倉庫にある袋の数と、

 帳簿の数が」


傍聴席が、ざわめく。


「どうして、

 それに気づいた」


子どもは、言葉を探した。


「……毎日、

 数えてたから」


「何を」


「配る前の袋を」


私は、息を吐いた。


「では」


私は、司祭を見る。


「この子は、

 何をしたのでしょう」


「帳簿を見た」


「それだけですか」


「理解した」


司祭は、強く言った。


私は、首を振る。


「いいえ」


一拍。


「この子は、

 間違いに気づいただけです」


空気が、張り詰める。


「確認します」


私は、板がない机を指した。


「帳簿は、

 何のためにありますか」


「管理のためだ」


司祭が答える。


「管理とは」


「混乱を防ぐことだ」


「では」


私は、子どもを見る。


「間違いを見つけることは、

 混乱ですか」


司祭は、答えなかった。


私は、子どもに向き直る。


「帳簿と、

 袋の数が違ったら、

 どう思いましたか」


子どもは、はっきり言った。


「……誰かが、

 少なくなる」


法廷が、完全に静まった。


誰もが、

同じ答えに辿り着いていたからだ。


「だから」


子どもは、続けた。


「……言わなきゃ、

 いけないと思った」


司祭が、声を荒げる。


「余計なことを考えるな!」


私は、即座に言った。


「それは、

 考えたからではありません」


一拍。


「分かってしまったからです」


木槌が鳴る。


「有罪」


判決は、変わらない。


「記録に残すな」


板はない。

だが、

この場にいる全員の記憶に、

深く刻まれた。


子どもは、連れて行かれた。


泣かなかった。


振り返りもしなかった。


ただ、

すれ違うとき、

私を見上げて言った。


「……次は、

 どこを見ればいいですか」


私は、答えなかった。


答えられなかった。


法廷が空になる。


私は、しばらく動けなかった。


理解することが、

 罪になるなら。


教えることは、

 何になる。


外で鐘が鳴る。


今日も王都は静かだ。


だが――

子どもが“分かってしまった”世界は、

 もう戻らない。


誤字脱字はお許しください。

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