探ろう!街頭インタビュー 〜友情編〜
秋の文芸展2025参加作品です!
シンクに積み重なる皿。
どれもこれも油に塗れている。
それらに洗剤をつけて水でゆすぐ――
それが今からやるべきことだとは、到底信じたくない事実だ。
「はぁ……」
思わずため息を吐く。
ため息を吐くと幸せが逃げていくなんてよく言われるが、逆だ。幸せが逃げていってるからため息を吐かざるを得ないのだ。
それでも、やらなければいけない。
私は覚悟を決め、シンクの中に溺れるスポンジを握った。
ふと、耳慣れない音に顔を上げる。
退屈で陰気なニュースを伝えていたテレビが、ポップな番組に切り替わっていた。
その明るさに、思わず画面に釘付けになる。
『さあ、本日も始まりました、『探ろう!街頭インタビュー』のコーナーです!』
知らない番組だ。もしかしたら最近、家事に囚われて娯楽が少なかったのかもしれない。
『テーマはこちら!【友情ってなんだ?個性的な街の人に聞いてみた】〜!』
――いやそれ、街頭インタビューで聞くようなテーマか?一人ひとりが尺取りすぎるだろ。
『今日は奇天烈県古三毛市でインタビューしていきます』
古三毛市か。あそこは個性的な人が集まることで有名だよな。類は友を呼ぶ、みたいなことだろう。
友、友ねぇ。何年あってないだろうか。
『早速聞いていきましょう!――すみません、ちょっとお時間いいですか?』
レポーターは最初の回答者にマイクを近づけ、質問する。
『あなたにとって、友情とはなんですか?』
マイクを向けられたのは、金髪でチャラチャラした印象の女子高生だ。
彼女は少し首を傾げ、口を開く。
『えー、友情?うーん、よくわかんないけど相手と自分の相互認識と信頼の上で生成される人間関係のことだと思うよー?あ、信頼は、利害関係じゃなくて人格的価値とかを含んでるからね?』
――想像以上に真面目な答えが返ってきた。どこでその語彙力をつけたんだよ。
『なるほどー。お互いのメリットだけではない、ということですね』
――今の回答を、この人は字幕なしで理解したの?私達は字幕があるからまだしも……
画面に釘付けになって作業が全く進んでいなかったことに思い当たった。いそいで手を動かす。それでも、視線はテレビ画面に固定されたままだ。
『つづいて……すみません、あなたにとって友情とはなにか教えてください!』
次にマイクを向けられたのは、黄金色の顔をした青年――パンだった。
『ぼくですか?――愛と勇気ですね』
――いやこいつ、ア◯パ◯マ◯じゃん!あの、愛と勇気以外に友達がいないことで有名な……
「ふふっ」
思わず笑ってしまった。
『―なかには、こんな回答も―』
ワクワクしながら画面を見ると。
『100人でおにぎりを食べることですね』
――どう考えても大人の身長の男性が、ランドセルを背負ってリコーダーを吹きながら答えていた。
いや、どうやってリコーダー吹きながら返答するんだよ……
『金よりも重いものですね』
へー。いいこと言うじゃん。
『あ、物理的にです』
――え?
『続いてが最後の回答です!――あなたにとって友情とはなんですか?』
――あぁ、もう最後か。不覚にも、残念がっている私がいた。
『――辛いとき、頼ったり頼られたりできることですね』
――ッ
その回答は、私の中でストンと落ちた。
――そうか、頼っていいんだ。
そう思った途端、急に体が軽くなったように感じた。
「よしっ」
もう少し頑張れそうだ。
私は袖をまくり直し、気合を入れると、残りの皿洗いに取り掛かった。
後ろにおいたスマートフォンがなる。
覗き込むと、疎遠になっていた友人からのメッセージだった。
――”こんど、ランチいかない?色々話したいことあってさ”