第52話 ヴァルガリアとの決戦
前回のあらすじ
本物のヴァルガリアが、いよいよ、騎士団の1人であるタビトに命令を始める。
ヴァルガリアの『絶対服従の命令』に対応するべく、耳栓を使ったケフェウスだが、彼はヴァルガリアの第2の能力『盲目たる恋』によって幻影を見せられ、アンドロメダを殺しかけてしまう。
シルクハットの男の元に、1本の通信が入る。
「はい?どなたです?」
「自分っスよ先輩!」
通信の相手は、帽子を被った女性からだった。
「はぁ。最近私にかけてくる人は、なぜ皆、名のらないのか。まぁ、皆様個性的なので誰だか分かりますが。」
シルクハットの男は溜息をつきつつ、「ところで、どんな用ですか?」と続きを促す。
「ヴァルガリア先輩が、言っていた、騎士達が『ポリマー』に行ってる間に、『シェダル』を襲撃する話。あれ、どうなったかなぁって思ってスね。」
帽子を被った女性からの質問に、シルクハットの男は笑って返す。
「ああ、あれですか。あれは作戦変更になって騎士共が『ポリマー』にたどり着く前に襲撃することに変わりました。」
彼の言葉に、驚きの声をあげる帽子を被った女性。
「え!? 自分聞いてないっスよ!そんな話!!」
「極秘でしたからねぇ。」
ほのぼのというシルクハットの男に、帽子を被った女性は慌てて言う。
「それで、誰が行くことになったんスか?」
「レオ君にお願いしましたよ。」
「お願いしたって事は、もう戦いは始まったんスか?」
「むしろもう、終わりましたよ。」
「レオ先輩はどうなったんスか!?」
慌てて質問する帽子を被った女性に、シルクハットの男は答える。
「死にましたねぇ。残念な事です。」
彼の言葉に、帽子を被った女性は叫びにも似た声を上げる。
「そ、そんな!もう我慢できないっス!これ以上先輩達を失うなんて!! 自分、『ポリマー』に急ぐっス!!」
彼女の言葉に、シルクハットの男は慌てる。
「お待ちください。貴方の出番は、最後の最後と言ったでしょう。」
「待てないっス。先輩達は、利用価値の無くなった自分達を、助けてくれたんス!それなのに、全員失うまで待つなんて出来ないっス!!」
帽子を被った女性は、そう言ってすぐに、通信を切ってしまう。
シルクハットの男は溜息をつきながら、呟く。
「はぁ。あの人の性格的に、最後まで待つなんて、無理な話でしたか。」
──────────
ケフェウスは、自身を馬鹿にするヴァルガリアを睨む。
その光景を見て、ヴァルガリアは更に笑う。
「アハハ!結局アンタらじゃ、アタシ様に勝てねぇみてぇですわね。じゃあそろそろ、遊びも終わらせてやるですわ!」
ヴァルガリアは、タビトの方を見る。
「タビト。アンタに命令するですわ!『そこの、双剣の女と、白い鎧の男の名を教えなさい!』ですわ。」
ヴァルガリアの言葉に、ケフェウスは不思議そうな顔をする。
「なんで、そんな事を聞くんだ?」
彼の疑問に、ヴァルガリアは小馬鹿にしたような笑顔をする。
「アンタらの為よですわ。せっかく奴隷にするのだから、名前ぐらい覚えてやろうって事よですわ。」
ヴァルガリアの言葉を聞いて、アンドロメダは、偽物の時と今のヴァルガリアの命令が違う言い回しをしていることに気づいた。
アンドロメダは慌てて、タビトに言う。
「駄目!!」
しかし、タビトはその命令に従う。
「ベラトリクスと、オリオンさんだ。」
その言葉を聞いて、ヴァルガリアはニヤァっと笑う。
「なら、タビト、ケフェウス、ベラトリクス、オリオン、メダ!アンタらに命令するですわ!! 『今からシェダルに行って、流星をアタシ様の元へ持ってきなさい!!』ですわ!!」
ヴァルガリアの命令を聞いて、5人は静かに歩き始める。
ヴァルガリアは、建物に隠れるポルックスを見る。
「さて、アンタは元の場所に戻れですわ。」
彼女の言葉に、ポルックスは答えない。
「なに、黙ってんだですわ。」
ヴァルガリアが、ポルックスに近寄ろうとして、背後から多数の足音が近づいていることに気がついた。
「なにですわ?」
ヴァルガリアが後ろを見ると、10名程の騎士達が『ポリマー』に来ていた。
「オリオンさん!休暇を頂いていた騎士達の中から10名。応援に来ました!!」
騎士の言葉に、オリオンは返さない。
「どうしたんです!オリオンさん!!」
彼らを無視して、先に進むオリオンを、若い騎士が止めようと、何度も話しかける。
それを見て、ヴァルガリアが嘲笑う。
「ハハ、無駄ですわ。アタシ様の能力で、そいつはもう、アタシ様の奴隷なのだからですわ。
オリオン、『その騎士共を殺しなさい!』」
ヴァルガリアがそう言うと、オリオンが、騎士達に攻撃し始める。
「しっかりしてください!オリオンさん!!」
攻撃を防ぎつつ、説得する騎士だが、オリオンには通じない。
「ケフェウス、メダ。『あの騎士共を殺しなさい!!』ですわ。」
ケフェウスは、剣をあげ、アンドロメダは弓を構える。
そして、ケフェウスは騎士に向かって走り───
───アンドロメダは、ヴァルガリアに矢を放つ。
「いっつ。きゅ、急に何をするんだ!? …ですの。」
腕に矢が当たり、驚くヴァルガリア。
アンドロメダは、彼女に構わず、周りの騎士に叫ぶ。
「皆さん!オリオンさん達は、今、あの女の子の命令に従うようになってます!! タビトさんは、1度ベラトリクスさんに蹴られて正気に戻りました!刺激を与えてください!」
「メダ!! 『黙れ!!』」
ヴァルガリアが叫ぶが、アンドロメダにはその命令は届かない。
「黙りません。今、貴方の弱点が分かっているのは私だけですから!」
「なぜ、あいつにアタシ様の命令が効かない…。」
ヴァルガリアは、アンドロメダを睨む。そして彼女は、ハッとする。
「まさか!メダって名前…。偽名か!」
アンドロメダが、ヴァルガリアに弓を構える。
「やはり貴方の、能力に必要なものは、名前。貴方が、偽物の時と命令の仕方が違うことに気づいたんです。貴方は、私達を操る時に名前を言った!偽物の時は、貴方自身が動いている時もあって、名前を言っていない。事前に、偽物の命令を聞くように命令すれば、それも可能でしょう。」
唇を噛み、悔しがる顔をするヴァルガリアに、アンドロメダが言う。
「あだ名を名前に、含まれない事だけは助かりました。気づいた瞬間、演技をしましたが、上手くいったようですね!!」
アンドロメダが矢を放つ。
「ケフェウス!!『アタシ様を守れ!!』」
ケフェウスが、ヴァルガリアの命令で、彼女の前に立ち、庇う。
そして、矢は、突然吹き出した風によって、方向を変える。
「な!!」
驚くヴァルガリアを見て、アンドロメダは言う。
「その手は、私には通じません!!」
アンドロメダが起こした風により、軌道が変わった矢は、ヴァルガリアの横腹に刺さる。
「かは!!」
ヴァルガリアは口から血を吐き、膝を着く。
「こんなところで…アタシの…夢が…。」
ヴァルガリアは朦朧とする意識の中、見る。
シルクハットの男が、自身に向かって手を差し出す幻影が。
「(ああ…。愛しのアンタ…。アタシの思い…届いたんだね…。)」
彼女は、その手を取ろうと、手を伸ばす。
そして、彼女の手は空中をきり、彼女は地面に倒れてしまった。
──────────
【ひとつ話をしましょうか。
その都市では紫髪の人物は、希少で、気味悪がれ、酷い扱いを受けていました。
大きな犯罪が起きれば、彼らのせいと冤罪をかけられ、まともな住む場所すらありませんでした。
ある時、紫髪の少女が、パンを盗みました。
捕まった彼女は、当然牢屋行き。とならず、1人の王女の命令により、王女の奴隷となりました。
王女からの扱いはとても酷く。通信機を使い、城の中でも外でも命令をされ、ストレスのはけ口にされました。
差別を受けている紫髪の少女を、助ける人などいませんでした。
ある時、少女は、自ら命を絶とうと崖の上に行きました。そこで1人の男と出会いました。
男は死のうとしている少女を、止めるでもなく、ただ雑談をするように話をしていました。彼女は男のペースにのまれ、自分の事を話しました。
男は言いました。
「では、私と共に来ますか?貴方の願いが復讐だろうとなんだろうと、願いを叶える手段を、教えてあげます。
ついでに、貴方が命令をする側になる力も与えましょう。自身の姿を、隠す術も。」
男は、少女に手を差し伸べました。
少女はその手を取りました。
そして、
乙女の星が輝きだしました。】
次回予告
ヴァルガリアを倒したアンドロメダ達。彼らを見送る『ポリマー』の住民の手により、都市は鮮やかに彩られる。
次回 第53話 都市に咲き乱れる赤い薔薇




