オレンジトンネル
小学校の帰り道には、必ず通らなければならない地下道があった。昼でも夜でも、その道を照らしているのは、やけに温かみのあるオレンジ色の常夜灯。どこか異世界に迷い込んだような、奇妙で不安な雰囲気が漂っている。僕は、毎日その道を通るのが嫌だった。日中は友達と集団登校をしていたから、何も恐れることはなかったが、下校時は一人になることが多かった。
その地下道には、他の通行人がほとんどいない。どこか不自然で不安を煽るような静けさが支配していた。僕は、足音が響くたびに振り返りたくなる衝動に駆られた。通り魔や不審者、変質者が出るんじゃないかという恐怖感が常に頭の片隅にあった。
ある日、下校時にふと立ち止まり、僕は心の中で決めた。「今日は、絶対にこの道を恐れずに通り抜ける。」その瞬間から、心臓がドキドキと激しく打ち始めた。どんなに怖くても、後ろを振り返ることなく、オレンジ色の灯りの中へ足を踏み入れた。
最初の一歩を踏み出した瞬間、何かが背中を押しているような気がした。無音の空間、ただ自分の足音だけが反響する。辺りは静まり返り、通り過ぎる風さえも感じない。オレンジの灯りが、不気味に浮かび上がっている。足元の暗闇が、僕を呑み込んでいくように感じられた。
でも、意外にも何事も起きなかった。何も起こらず、ただ足元を慎重に確認しながら歩いていった。冷たい汗が背中を伝って流れ落ちるのを感じたが、それでも僕は止まらなかった。普段なら足早に歩いてしまうところを、今日は意識してゆっくり歩くようにした。
オレンジ色の灯りが、まるで僕の背中を押すように、ただ黙って僕を照らし続けていた。地下道の出口が見えてきた時、僕は心の中で静かに「もうすぐだ」と呟いた。出口を抜けると、まばゆい夕日の光が僕を迎えた。その瞬間、恐れていたものは何もなかったことに気づいた。
次の日、僕はまたその地下道を通ることになった。しかし、昨夜のような強い恐怖感は、もう感じなかった。オレンジの灯りは依然として不気味に輝いていたが、僕の足音は前日よりも落ち着いて響いていた。恐怖心は残っていたが、それでも平然と一人で歩き続けることができた。
オレンジトンネルは、僕にとってただの道ではなく、ひとつの試練だった。通り過ぎることで、自分が少し強くなったような気がした。そして、どんなに怖いと思っても、一歩踏み出せば、それがいつか普通になることを、僕はその道を通りながら学んだのだった。
それ以来、僕はあの地下道を恐れずに通ることができるようになった。ただし、オレンジ色の灯りの下で、時折不安な気持ちが湧き上がることもあった。でも、もうそれを怖がることはなかった。勇気を持って通り抜けることができる自分を、少し誇らしく感じるようになったのだ。